広報活動

「ウッドデザイン賞2022」記念シンポジウムレポート『都市を森林(もり)に〜企業価値を高めるウッドデザイン〜』

レポート
2023.03.14
◇◆都市でも存在感を放つ、ウッドデザイン◆◇

木で暮らしと社会を豊かにするモノ・コトを表彰し、国内外に発信する「ウッドデザイン賞」。

2022年度より一般社団法人日本ウッドデザイン協会が主催となり、SDGsなどの時代にニーズに合わせた審査ポイントに刷新。

寄せられた応募総数330点の中でも、「木の活用による社会課題の複合的な解決をもたらし、イノベーション・新産業創出に寄与する作品」として特に際立つ「最優秀賞」に選ばれた4作品があります。

今回は2022年12月7日、SDGs Week EXPO2022『エコプロ2022』内で開催された「記念シンポジウム」の模様をリポート。

『都市を森林(もり)に ~企業価値を高めるウッドデザイン~』と題された前半のテーマには、「HULIC & NEW GINZA8」(国土交通大臣賞)と「ワーカーのウェルビーイングな働き方をサポートするビッグテーブル『シルタ』」(経済産業大臣賞)が登場。 
両者の事例は、「木を使った新たなデザインの力で、社会課題の解決を目指す」というウッドデザインの考え方が都市や、企業経済にも存在感を持ち始めていることを示しています。

この力強い事実から見えてくるのは、一体どんな未来でしょうか?


◇◆天然木を用いたファザードが生む“新たな都市景観”◆◇

アップルストアの建て替え時に仮店舗としても利用され話題となった「HULIC & NEW GINZA8」。
同施設は、東京・銀座にある木造ハイブリッド商業施設で、日本初となる12層の木造架構を実現し、約60mの高さを実現しました。

銀座通りの季節の変化や、光の向きの変化までを写し出す、木の葉のようなファサードが印象的な同施設。ここに至る技術の進化を考えると感慨深いものがあります。

さらに同施設は、福島県産材を構造材の多くに使用し、地方の森林と都市の繋がりを体現した都市景観を創出。

脱炭素時代において、多くの人々に都市木造の意義を発信し、高層建築が木造になるターニングポイントとなる計画として評価されました。

受賞者の梅野 圭介氏(株式会社竹中工務店 東京本店設計部 設計第5部門 設計グループ長)をはじめとするプレゼンテーションでは、CLT※を構造材兼、型枠兼、天井仕上げとなる合成床板にも使用することなど、今回のために開発した技術について解説。
※CLT(Cross Laminated Timber):各層の木の繊維方向が直交するように積み上げた木材。変化しやすい木の性質を抑制し、高い寸法安定性を有する。

テナントの貸室にも積極的に木構造を提案したという、非常に意欲的な同プロジェクト。
日本で有数の影響力のある銀座という街から発信する重要性について思い至ります。

審査員からは、繊細な作りが印象的な「HULIC & NEW GINZA8」の内部の雰囲気のまとめ方などに質問が向けられました。

それに対し「このプロジェクトは、木(もく)が一般化することを目指している。そのために、シンプルさと“鼻につかなさ過剰にならないこと”を重視した。木のやわらかさ、繊細さを表現するため、ボルトや収まりは極力目立たせないようにもしている」と梅野氏。

都市にウッドデザインを採用するにあたっては、無理のない設計も重要。
それについて前出、梅野氏は次のように語りました。

「弊社(竹中工務店)は創業400年以上の歴史において、もともと鉄骨やRCを作るよりも木造をやってる方が長かった。その中で仕口※ をきれいにみせる技術が継承されてきたこともある」
※仕口:材料の接合部分に用いられる継手の形状のこと。

◇◆オフィスに「木の家具がある」という価値◆◇

身体的・精神的・社会的に良好で幸福な状態を表す概念として、働き方改革の注目のキーワードである“ウェルビーイング”。

無垢1枚板の風合いを再現したビッグテーブル「silta(シルタ)」は、まさにワーカーのウェルビーイングな働き方をサポートするプロダクト。

天板と脚のみというシンプルな構造ながら、ペーパーハニカムパネルとアルミ押出材を天板内に収納することで、軽量化と強度を担保。
それでいて本物の無垢の木ならではの、心地いい質感を味わえるデザインクオリティの高い作品です。

同プロダクトは、木のぬくもりがワーカーのストレスを軽減したり、集中力を上げる効果も実証実験で裏付けられたのも特徴。
木製家具のオフィス導入が、昨今注目される健康経営推進にもつながることを示し、オフィスの木質化促進に貢献することが評価されました。

受賞者の小島 勇氏(株式会社イトーキ 商品開発本部 プロダクトマネジメント部)によるプレゼンテーションでは、2010年代から展開されていた同社の地域材活用ソリューション「Econifia」の取り組みをはじめとする、同プロダクトに至るまでの道のりを説明。

「明日の『働く』をデザインする」という同社のコンセプトに対して、“木が人に与える効果”が担う意義についても多くの気づきがありました。

審査員から実証実験への試みにも熱いエールが送られた「ワーカーのウェルビーイングな働き方をサポートするビッグテーブル『シルタ』」。

同作品に対しては、最終的に木製天板を3mmにした理由などの質問が寄せられました。

受賞者は「4mmでも5mmでもなく、あえて3mm(1mmの3層構造)にしたのは、木の経年変化による影響をできるだけ抑えるため。そのうえで、メラニン化粧板の下地を感じさせない3mmを限界点にした」と応答。

「オフィスというのは、場所によって乾燥するなど、木にとって厳しい環境ともいえる。だが、オフィス家具は“触る”ことが頻繁に起こるものであるからできる限り、“本物の木”の匂いや風合いを再現していきたい」と意気込みを語りました。


トークセッションでは、両作品とも、必ずしも木造にこだわるのではなくハイブリッドで、ウッドデザインを活用、実現していることにも話題がのぼりました。

都心からの発信や、企業としての日々の活動の中に、木を採用することがもっと身近になり、社会がもっと豊かになる未来を想像できる事例です。


『ウッドデザインが開く、地域発の新たなバリューチェーン~地域に新たな経済圏をつくる、ウッドデザイン~』と題された
~地域に新たな経済圏をつくる、ウッドデザイン~
 
続く後半。
都市部発の事例だった前半とはは対照的に、「MOKUWELL HOUSE」(農林水産大臣賞)、「SANU 2nd Home」(環境大臣賞)といった地域発の事例が登場。

「木を使った新たなデザインの力で、社会課題の解決を目指す」というウッドデザインの考え方。その体現として、地域のリソースを生かしながら新たな経済圏を創出している点で注目の事例です。

◇◆日本初、CLTを採用の「純木造プレファブリック住宅」◆◇

まず議題に上ったのは、農林水産大臣賞を受賞した「MOKUWELL HOUSE」。

鹿児島県のMEC Industry株式会社鹿児島県が手がける同事業は、日本初のCLT※を採用した「純木造プレファブリック住宅」。
※CLT(Cross Laminated Timber):各層の木の繊維方向が直交するように積み上げた木材。変化しやすい木の性質を抑制し、高い寸法安定性を有する。

山から製材、加工、組立、施工、販売までの「統合型最適化モデル」による中間コストカットを実現しています。
原木調達は山から自社素材センターへ直送し輸送にかかる負荷を低減。
工場での原木の加工時にも、製品から逆算した高歩留り木取りを採用しています。

今回MOKUWELL HOUSEの評価のポイントは以下です。

原木調達を地域の森林から自社の素材センターへ送り、原木加工でも高い歩留りを可能にしていること。

地域密着型のサプライチェーン構築から生まれた、価格と品質の両立による購入層の広がりをもたらす木造のプレファブリック住宅であること。

工場生産による部材を現場で組み立てによって、高品質と低価格を両立させたこと。
地域材を高付加価値化し、木の魅力を存分に味わえる空間を提供したこと。

複合的な課題解決を可能にした点で画期性があることが語られました。

受賞者の小野 英雄氏(MEC Industry株式会社 代表取締役社長)によるプレゼンテーションでは、三菱地所をはじめ竹中工務店、大豊建設など7社が出資し、2022年1月に設立されるまでのチーム体制についても解説がありました。

また、事前に工場でつくったユニット(部材)を現場で組み立てるだけでよい状態にして出荷する仕組みの詳細についても説明も。
従来を100とした場合、MOKUWELL HOUSEの現場作業人口はなんと45%。

大幅に作業人口を抑えることができるビジネスモデルは、過疎化によって労働人口が少ない地域の参考になるウッドデザイン事例ともいえるでしょう。

MEC Industry株式会社 代表取締役社長・小野 英雄氏は
:「MOKUWELL HOUSEの事業において、2022年6月から工場の稼働が始まったばかりだ。事業計画として目標の5万5,000棟に向けて、工場をフル稼働させていきたい」と話しました。

トークセッションでは、性能が高い純木材のプレハブ住宅を実現した「MOKUWELL HOUSE」について、森から加工場まで木材を移動させるのではなく、加工場が森へと近づくという根本となる発想自体へのユニークさへの指摘がありました。


◇◆「自然の中にあるもう一つの家」を提供するサブスクが登場◆◇

月額などの定額料金を支払うことにより、契約期間中、商品やサービスを利用することができる「サブスクリプション(サブスク)」。

代表的なサブスクといえば、動画配信や音楽配信、電子書籍の読み放題といったデジタルコンテンツですが、今やウッドデザインの先端領域にも発展してます。

株式会社Sanuが手がける「SANU 2nd Home」は、“自然の中にあるもう一つの家”を提供するセカンドホーム・ サブスクリプションサービスです。

月額5.5万円のサブスクに登録することで、都心から好アクセスな自然立地にある環境配慮型の木造キャビンを自由に選んで滞在することが可能。

受賞にあたっては、木と調和した保養滞在の魅力を訴求し、キャビンに国産材を使用したこと。

また、ペレットストーブで自然エネルギーを使用したり、できる限り釘やビスを使わない解体しやすい建築方法を採用したりといった環境負荷低減への取り組みも評価されました

さらに同サービスでは、収益の⼀部で植林を実施。

キャビンが増えるほど森が豊かになる、環境再生型の事業である点も特徴です。

受賞者の福島 弦氏(株式会社Sanu CEO)によるプレゼンテーションでは、木の扱いに強みを持つ建築設計施工パートナーである株式会社ADXとの協働についても説明。

創業者への自然に対する親しみの気持ちからビジネスの仕組みを考えた同社と、図面を書いてから実際の施工まで一気通貫で行うADX。

そして、貴重な木材の確保に尽力した釜石地方森林組合との、初期SANU CABIN50棟分の建築に至るまでの道のりが語られました。

「都市から自然に繰り返し通い、生活を営む」というSANU 2nd Homeのコンセプトを実現するバリューチェーン。それを実現するには、木々や自然への敬意と感謝でつながる関係者のチームワークがあってこそだと感じられる事例でした。

デザイン性の高さも評価された「SANU 2nd Home」については、建築を作って終わりにするのではなく、植樹や木のメンテナンスなどを通して木と人との関係性が続いていくことを賞賛する場面もありました。

株式会社Sanu CEO・福島 弦氏は
「プロダクトとして、ユーザーのフィードバックをもとに、更新していくという考え方を持っている。現状の土台は鉄骨になっているが、もう一度木にチャレンジできないかなど、さらに環境配慮型のキャビンを突き詰めていきたい」と話しました。


トークセッションでは、両作品とも、ウッドデザインを通して、一度は離れた人と木との距離感を縮めていることにも焦点があたった今回。

人と木をつなぐウッドデザインーー・・・。

自然豊かな地域だからこそ可能なウッドデザインを起点とするバリューチェーンが、都市の人々も巻き込む好循環が予感できる事例がそろいました。

2022年度「ミス日本みどりの女神」で、趣味は料理という成田愛純さんが進行を担当。家族に料理を振る舞うときに木の食器を使ったところ「温かみがあっていいね」と会話が盛り上がったというエピソードを話してくれました

株式会社竹中工務店 東京本店設計部 設計第5部門 設計グループ長・梅野 圭介氏:株式会社イトーキ 商品開発本部 プロダクトマネジメント部・小島 勇氏

トーク中には、「HULIC & NEW GINZA8」の施設内にオフィス家具の「シルタ」を置けば、針葉樹と広葉樹の木(もく)であふれるビルになるとの提言も

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