#6

地域産広葉樹材のトーンウッド適性の評価方法の開発

    楽器用材として実績のない地域産広葉樹材のトーンウッド適性を評価するために、楽器用材として実績のある輸入広葉樹材で基準化したデータを表示し比較することで、音色に関連した木材の特徴を視覚的に評価できる手法を開発した。国内の地域産広葉樹材を解析し、音色の構成要素と関係すると言われている振動特性パラメータを選択してレーダーチャートを作成した。

    掲載情報の概要

    平成28年度、第67回⽇本⽊材学会⼤会(福岡)での発表内容

    研究背景

    用材用途の広葉樹材が不足

    家具
    ロシア産ナラ、タモのワシントン条約の希少樹種指定や、
    中国の天然林の伐採禁止などにより、輸入広葉樹の入手が難しい状況に。
    <沖 修二:産官学共催セミナー要旨集 (2015)>

    合板(住宅内装・コンクリート型枠用パネル)
    南洋材合板、納期に遅れ。
    環境規制による原木の伐採減少が理由で、日本への到着は12月までずれ込む見通し。
    <日本経済新聞 2017.10.3 朝刊>

    楽器
    ワシントン条約締約国際会議で、ローズウッド全般,
    ブビンカ属3種などが付属書Ⅱに追加された。
    <日刊木材新聞 2017.1.27>

    楽器用広葉樹材の規制が拡大中

    ワシントン条約(CITES):特定の野生動植物が過度に取引されないよう規制
     – 附属書:絶滅の危機に瀕する種で、取引は原則禁止
     – 附属書:将来的に絶滅の恐れがあり、取引の規制が必要な種
     – 附属書:自国内の保護のために、関係国の協力を必要とする種

    取扱停止・価格高騰・部位制限など
    楽器用材(トーンウッド)の主役である稀少材が使用困難に!

    <例:Jeff Traugott Guitars>
    – Side & Back : Brazilian Rosewood
    – Neck : Mahogany

    近年の楽器業界における動向:代替材の普及

    ①別産地の近縁種
    【ローズウッドの場合】
    ブラジリアンDalbergianigra ⇒ マダガスカルDalbergiamaritima ⇒ ホンジュランDalbergiastevensonii
     ⇒ サザンアメリカンDalbergiaretusa ⇒ イーストインディアン(インドネシアン)Dalbergialatifolia

    【マホガニーの場合】
    キューバンSwieteniamahogoni ⇒ ホンジュランSwietenia macrophylla ⇒ メキシカンSwietenia humilis

    ②見た目・性質が近しいと考えられている別種
    【ローズウッドでの例】
    ブビンガGuibourtia ・ ジリコテCordia dodecandra ・ パーフェローLibidibiaferrea ・ ウェンジMillettialaurentii 等

    【マホガニーでの例】
    アフリカンマホガニーKhaya spp. ・ フィリピンマホガニーShoreanegrosensis ・ コアAcacia koa ・ サペリEntandrophragma cylindricum 等

    ③地域産材(ローカルウッド)
    エレキギターにおいてはアルダー、アッシュ、バスウッドがボディ材として既に一般化している他、
    Poplar ・ Willow ・ Pear ・ Birch ・ Beechなどこれまで楽器用材として見かけなかった樹種が、
    ギターネックなど重要部位を含む箇所に新規採用されているケースが増えつつある。

    つまり、要求される特性等に問題がなければ、
    これまで利用されてこなかった木材を新たな楽器用材として普及できる可能性が生まれている。

    <例:Keihäs guitars>
    – Side & Back: Goat willow
    – Neck: Black alder

    国産広葉樹活用の動き

    広葉樹材において今後重要になる要素

    用材用途の広葉樹材が不足している背景を受け、
    今後長期的に広葉樹材を活用していくためには下記要素が重要になってくる。
    ①安定した資源供給 (資源量)
    ②サステナビリティー (持続性)
    ③トレーサビリティ (追跡可能性)

    これらを満たしているかどうかは例えば『森林認証』が一つの指標となる。
    これは環境に配慮し、持続可能で適切な森林経営が行われていることを、第三者機関が認証する制度で、
    FSC・PEFC・SGECなどがある。

    本研究では楽器用材を想定して、以下の国産広葉樹について着目した。
    ■センダン(熊本県林業研究指導所、(公社)日本木材加工技術協会関西支部早生植林材研究会)
    ■シラカバ、ダケカンバ(北海道立総合研究機構 林産試験場)

    センダン (オウチ)(Melia azedarach L. var, subtripinnata Miq.

    センダン科センダン属の落葉広葉樹であり、大きいものは樹高20m、直径1mを超える高木である。
    元々日本には分布せず、かなり古い時代に渡来した外来樹といわれるが、
    現在では本州の伊豆半島以西の太平洋沿岸に広く自生する。<日本有用樹木誌(伊東隆夫、佐野雄三 他)>

    【センダンによる国産早生樹林業の試み】
    熊本県では細川護煕元総理大臣が県知事だった1987~1988年にかけて、林業経営期間の短縮を目指して、
    早期生長と多収穫が可能な有用樹種の選抜が始められた。
    センダンは15~20年で直径30~40cmまで成長することが可能であり、熊本県林業研究指導所によって真っ直ぐな丸太を得る施業が確立した。
    日本木材加工技術協会関西支部の早生植林材研究会では2014年に関西地区で植栽試験を開始し、
    2016年より荒廃農地(耕作放棄地)で植栽試験を開始した。

    熊本県のセンダン

    関西での試験植林(早生植林材研究会)

    センダンの特徴:美しい木目
    マホガニーと同じセンダン科(Mahogany family)に属し、キリやケヤキに似て木目が美しい。
    インドネシアやケニヤでは家具用材としての植林が進んでいる。

    【センダンに関するまとめ】
    ■センダン科 (Mahogany family) に属し、木目が美しい
    ■西日本で10~20年の早生樹林業が可能
    ■真っ直ぐな良材を得る技術が確立
    ■現段階では利用可能な資源量が不十分

    シラカバ(Betula platyphyllaSUKATCHEV var. Japonica HARA)
    ダケカンバ(Betula ermaniiCHAMISSO)

    東アジア北部、北海道、本州北部・中部に分布する。
    伐採跡地や山火事跡など攪乱があった場所にいち早く侵入し成長する
    先駆樹種 (パイオニアプランツ) である。

    シラカバの活用<北海道立総合研究機構 林産試験場>
    ・「かき起こし」という施業で森林の再生が比較的容易(先駆樹種)
    ・広葉樹施業の経験が少なく、輸入材と比較して優良材が少ない
    ・供給量が安定しないため、9割以上はパルプ用チップになる
    ・付加価値の高い家具用材としての活用に向けた技術開発を進めている

    【シラカバ、ダケカンバに関するまとめ】
    ■寒冷地の先駆種で成長が速く、森林の再生が容易
    ■北海道では資源量が多い
    ■家具にも利用できるが、市場評価は低い
    ■北海道には環境・持続性を配慮した認証林が多い

    楽器用材(トーンウッド)における問題点

    楽器業界の性質

    楽器業界は、経験主義あるいは保守的であると言える。
    先駆者や、評判の良い職人による成功例、すなわち王道モデル(テンプレート)というものが存在し、
    楽器のほとんどはそういったものを模倣ないし踏襲する形で製造されており、
    それと異なる”新しい仕様”はあまり歓迎されない傾向にあるからだ。
    そのため地域産材は勿論、定番材以外の使用例は極めて少なく、知見はほとんどない。

    一方で、楽器の芸術品としての側面や、演奏家にとっては音や使用感が重要なのであって材料の種類はあまり問題にならない事から、
    「魅力的な見た目」や「良い音」といった価値を示すことができれば、
    研究背景として前述した近年での代替材普及の件の通り、興味を喚起する事は十分可能だと思われる。

    そこで、客観的測定値を元に、
    ・加工のしやすさ
    ・耐久性
    ・音の特徴
    といった楽器用材としての適性を評価する手法を確立し、
    地域産材の有用性に関するエビデンスを充実させる必要がある。

    音色の評価

    所謂「音色」というものは感性値(主観的)であり、
    以下のような様々な物性値(客観的)が組み合わさって成り立っているものである。
    ・周波数構成
    ・アタック
    ・減衰
    ・響き方

    バイオリンにおける響板、弓、裏板・側板など、
    用途毎に必要な物性値というものは既往の研究によりある程度分かっているが、
    個々の物性値を測定して程度の比較は出来ても、それによって期待できる音色は分からない。

    実験の内容

    概要

    国産広葉樹材について、客観的測定値を元に感性値に即した評価を行うため、
    下記要項での実験を行った。
    ①国産広葉樹材の音響特性を測定
    ②楽器用材として実績のある輸入材で基準化
    ③レーダーチャートで視覚化

    方法

    【試験体】
    輸入材:マホガニー、ローズウッド、ハードメイプル
    国産材:センダン、シラカバ、ダケカンバ

    【準備】
    CaClにより調湿(含水率の差を小さくする)

    【測定】
    ・たわみ振動による周波数解析
    ・縦振動による周波数解析

    【楽器用材の振動特性の評価】
    下記の客観的測定値を求め、それぞれ比較を行った。

    比ヤング率(E/ρ
    弾性率比(E/G
    音響インピーダンス(Z=√())
    音響放射係数(R=√(Eρ3 ))
    1次たわみ振動の減衰係数(tanδl
    縦振動の減衰係数(tanδf
    ρ: 密度、E: ヤング率、G: せん断弾性率

    【たわみ振動解析】
    本研究におけるたわみ振動は下記条件にて測定し、
    ・支持条件:両端自由
    ・測定および打撃の位置:奇数次振動の標準的な腹の位置
    ・支持位置:奇数次振動の標準的な節の位置
    日本住宅・木材技術センター ”構造用木材の強度試験マニュアル”(2011: p.70)に準拠して
    「TGH法」による解析を行った。

    実験結果

    輸入材との比較レーダーチャート

    まとめ・総評

    国産広葉樹材からセンダン、シラカバ、ダケカンバの3種について、
    楽器用材として実績のある輸入材ローズウッド、マホガニー、ハードメイプルの音響特性と比較し、
    輸入材を基準としての音色評価を試みた。
    ■シラカバとダケカンバはハードメイプルに比較的近い音色が期待できる
    ■センダンはマホガニーに比較的近い音色が期待できる
    ■振動の減衰について、どの振動モードにおいても輸入材の方が比較的減衰しにくいことが示唆された
    ■今回調査した国産広葉樹材においてローズウッドに近い音色が期待できるものはなかった

    エレキギターの試作

    本実験を経て、シラカバおよびダケカンバがハードメイプルの代替材となり得る事が分かったため、
    FSC認証林 (三井物産の森)から採れた材を使用して実際にエレキギターを試作した。

    三井物産の森について

    FSC®認証とは】
    適切な森林管理が行われていることを第3者の認証機関から認証される森林管理認証制度(FM認証)の一つ。
    FSC ®はNPOである森林管理協議会(Forest Stewardship Council®)が運営する国際的な制度であり、
    そのほかの認証制度としてPEFCやSGECなどがある。
    本研究ではFSC -FM認証林である三井物産・似湾山林から出材したシラカバ材、ダケカンバ材を使用した。

    三井物産はFSC®認証をすべての森林で取得しており、
    森林管理を対象とするFM認証(Forest Management)を三井物産が取得し、切り出した木材の加工・流通を対象とするCoC認証(Chain of Custody)を三井物産フォレストが取得したことで、日本最大の国産のFSC®認証材の供給者である。

    材構成・制作コンセプト

    シラカバおよびダケカンバのみでエレキギターを構成することから、
    ネック等にメイプル材が主に使用されている「ストラトキャスター®」をベースに設計した。

    ネック・指板
    「変形のしにくさ」や「強度の高さ」が重要になるため、より高密度かつ剛性が高いダケカンバを採用。

    ボディ
    「振動のしやすさ」や「軽さ」が重要になるため、より軽量で鳴りが強いと思われるシラカバを採用。