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森の中を駆け回ったり飛び跳ねたりするように、体いっぱい遊びを楽しむ。全天候型屋内施設「KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE」
航空機や工作機械、自動車などさまざまな産業が発展する、ものづくりのまち・各務原市。名古屋市や岐阜市へのアクセスが良好なことからベッドタウンとしても発展し、若いファミリー世代も多く暮らしています。市役所近くに位置する都市公園「各務原市民公園」と「学びの森」は市民の憩いの場として親しまれ、県内外から多くの人が訪れるなど、まちを代表するスポットとして注目されています。
そんな各務原市の「新しいまちの顔」として、2021年3月に開館したのが「KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE」(以下、KPB)です。2つの公園の「架け橋」になるようにとの願いが込められた同施設。安全性と創造性のある木製遊具と建築が一体化し、周辺との親和性が高く木の魅力が感じられる開放的な空間づくりなどが評価され、2021年ウッドデザイン賞の優秀賞(林野庁長官賞/ハートフルデザイン部門、建築・空間分野)を受賞しました。
地域のポテンシャルを生かし、にぎわい創出の拠点をつくる
KPBが位置するのは、2つの公園の中間です。イチョウやメタセコイアの美しい並木道で知られる「学びの森」に隣接し、JR・名鉄線の線路を越えたらすぐの場所には中央図書館を併設する「各務原市民公園」があります。たくさんの木々が枝葉を広げる空間に、子どもや大人の声、そして通過する電車の音が響く、穏やかでのびのびとしたスポットです。
各務原市は2つの公園の回遊性を向上させ、周辺エリアににぎわいを創出し価値を高めるため、Park-PFI制度(公募設置管理制度)を活用して公募対象公園施設である収益施設の設置とその周辺の特定公園施設の整備・運営を行う事業者を公募。公民連携事業「学びの森官民連携型賑わい拠点創出事業」を立ち上げ、新たな拠点づくりに乗り出しました。
事業には、岐阜県高山市に拠点を置く「飛騨五木グループ」内の工務店「井上工務店」や岐阜県産・国産材による木造建築や木育施設運営を担う地域商社「飛騨五木」のほか、建築事務所「TAB」(岐阜県岐阜市)、「飛騨五木」と市民団体「かかみがはら暮らし委員会」が共同運営する「各務原学びの森」(岐阜県各務原市)といった、岐阜県を代表する地場産業である林業に関連する企業と市民団体が参画しました。地元企業のポテンシャルを生かして、市民の声を反映した施設を実現するのに適した構成であるといえます。
社会実験を経て開館したKPBには、「飛騨五木」が運営する屋内遊戯施設「遊び創造labo」をはじめ、岐阜県内で店舗を展開する飲食店が入居しています。「遊び創造labo」を利用するには入場券(大人(13歳以上)、子ども(3〜12歳)ともに平日600円、休日850円。55歳のシニアは平日・休日ともに500円。3歳未満は無料)の購入が必要で、購入時に渡されるリストバンドを付けていれば自由に入退場が可能です。
壁をつくらず、余白を残す
KPB内の建物は岐阜県産の木材とガラスを組み合わせて造られており、周辺の並木道の風景と非常にマッチして、とても開放的です。外からは、ガラスに並木が映って森が広がっているように感じられ、室内に入ると柱の間からガラス越しに差し込む日の光がキラキラと輝いていて、森の中で木漏れ日を浴びているようにも思えます。
「遊び創造labo」の運営スタッフ・森内湧也さんは「この場所をつくるにあたって、まず大事にしたのが『隔てないこと』でした」と話します。
❑施設の特徴を解説する「飛騨五木」の森内湧也さん
「2つの公園をつなぐ『架け橋』となる場所ですから、敷地を壁や塀で囲んだり中の様子が見えなかったりするような造りにはしたくないと考えました。当施設には有料スペースもあるのですが、その境界もあえて曖昧にしているんです」
KPBの敷地と道路の境界には奥行きのある木製の縁台を設置するのみ。縁台の真ん中に等間隔に建てた柱にロープを渡していて、これが有料スペースとの境目を示しています。飲食店は有料スペースに入場しなくても利用できるため、例えば晴れた日には道路に面したほうの縁台に腰掛けてコーヒーを片手に休憩する人の姿も目にするそうです。また、トレーニングバイクやハンモックセットなど、屋外用アイテムのレンタルサービスも展開。レンタルアイテムは、KPBの敷地内はもちろん「学びの森」などでも使用可能。利用者は周辺の公園を含めて広く空間を利用できるというわけです。
きっぱりと線引きしないことで生まれる「余白」をいろいろな人が行き交い、思い思いに過ごす。そんな「ゆるやかさ」の演出に、木の持つ温かな印象は非常にマッチしており、親しみやすさや関わりやすさにつながっているといえます。
木材を使うからこそ実現できた、「安心で、安全すぎない」遊びの場
❑デザイナーと協力し、子どもがわくわくする世界観を表現。ガラス面の下部には、衝突防止策としてオノマトベをあしらっている
メイン施設である「遊び創造labo」には、ある特徴があります。それは「ルールや注意書きがない」こと。施設内には、「〇〇してはいけません」といった注意書きがどこにもありません。大型の木製遊具は大人でも登ったり降りたりするのが大変そうな造りで、見方を変えれば「小さな子どもだけではちょっと危ないのでは?」と心配にもなってしまいますが……。安全対策について森内さんは「あえて安全にしすぎないようにしました」と話します。
「もちろんお子さんが安全に遊べることが第一ですから、適所にクッション材を設置し、あまりに危ないことをしているお子さんには運営スタッフが声掛けするなどの対応をしています。ですが、それ以上の手厚い安全対策は講じていません。
ヒヤッとしたりドキッとしたりする体験は、運動神経や危機管理能力を育てるのに欠かせないものだとも思うのです。適度に安全な環境で遊びながら、いろんな『気づき』を得られるように、そして気づきをきっかけに主体的に考える力を育てられたらと考えました」
森内さんの言葉を聞いて、幼い頃に学校の裏山で遊んでいた記憶が蘇りました。斜面を転げ落ちたり、高いところから落ち葉にめがけて飛び降りたり。そういった体験と照らし合わせると、最初に抱いた「危ないのでは?」という印象が薄れ、「確かに適度に安全な空間だ」と納得することができました。
また森内さんは、「木材は、遊びの場をつくるのにとても適していると感じます」と話します。
「建物の建材や遊具には、主に岐阜県飛騨地方で育ったスギを使用しています。スギは樹種の中でもやわらかく、比重が小さく分保温性や断熱性にも優れていて、人肌程度のぬくもりが感じられる優しい手触りが特徴です。無垢材を使用しているのでスギ本来の香りもほのかに香ってくるんですよ。スギの明るい木目の色合いを引き立たせたいと、クッション材などのカラーリングはパステルカラーで統一しました」
五感が刺激されると、好奇心が養われるとともに脳の疲労回復や心身のリラックスにもつながるといわれています。わくわくとリラックスが共存する心地よさもまた、木だからこそ形にできるもの。物腰のやわらかさなどを表す「人当たりが良い」という言葉があるように、KPBは木の持つ特徴を存分に生かした「人当たりの良い空間」に仕上がっていると感じられました。
経年変化も味わいの一つ。メンテナンスを重ねながら「みんなの空間」を育てていく
❑「KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE」の外観。ガラス面に木々が反射する。
開館から2年余りが経過し、少しずつ風合いにも変化が見られるように。特に利用者が多く触れる遊具や床材はどうしてもささくれや欠けが生じやすく、運営スタッフが適宜補修しケガの防止に努めているそうです。
割れの生じた梁もありますが、構造上は大きな問題ではないとのこと。森内さんは「工務店のノウハウを生かし、将来起こりうる経年変化を見越して製材から施工まで手掛け、さらには運営まで関われているのが強みです」と胸を張ります。建てるまでではなく、その先も「木のプロ」が管理に携わることで、機能性や安全性を適切に保つことができているのも、KPBの魅力につながっているのでしょう。
「当社をはじめとする事業者は、言ってしまえば遊びの場をつくるのが本業ではありません。ですが、だからこそ固定概念や常識に縛られることない、自由度の高い場を木の性質を十分に生かしてつくることができたのだと思っています」
改めて建物内を見渡すと、遊んだり、談笑したり、日向ぼっこをしたりと、本当に思い思いに過ごす利用者の皆さんの姿が目に入りました。どんな過ごし方も受け止められる、大きな包容力のようなものが伝わってくるようでした。
最後に余談をひとつ。建材にはメインのスギの他に、岐阜県産のヒノキ、クリ、ケヤキ、ヒメコマツが使用されています。これら5つの樹種は飛騨地方を代表する木材であり、総称して「飛騨五木」とも呼ばれています。KPBに訪れた際は、どこに何の樹種が使われているか探してみてはいかがでしょうか。
【関連情報】
2021年受賞優秀賞 (林野庁長官賞)「KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE」
公式HP「KAKAMIGAHARA PARK BRIDGE」