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「ウッドデザイン賞2023」最優秀賞・特別賞(大臣賞)受賞作を紹介!【後編】建築・空間分野の5作品
東京ビッグサイトでの展示会・エコプロ内で行われた、「ウッドデザイン賞2023」表彰式と受賞記念セミナー。後編の記事では、建築・空間分野から最優秀賞や特別賞を受賞した5作品を紹介します。
なお、前編の記事ではコミュニケーション分野とプロダクツ分野の最優秀賞受賞作を紹介していますので、併せてご覧ください。
新技術で生まれた環境に優しい大規模木造建築「北海道地区FMセンター」
後編で最初に紹介するのは、最優秀賞(国土交通大臣賞)を受賞した「北海道地区FMセンター」(北海道札幌市)です。まず、上の写真をご覧ください。半透明の外観は、北海道の雪に覆われた街や大自然に映えて見え、とても幻想的な雰囲気を醸し出しています。
この外観は、自然光を室内に採り入れる役割も果たしています。また、室外と建物中央部の執務空間の間にある「中間領域」では地下水を流す冷暖房ラジエーターを採用し、執務空間部分は中間領域の入れ子のような構造にして自然の断熱効果を発揮。これらにより、エネルギー消費量を削減し、環境への配慮もされた建物となっています。
そして、856㎡という大規模木造建築を支えているのが、竹中工務店が開発した新木架工システム「ダブルティンバー」。
「ダブルティンバーは非住宅分野に活用できるシステムとして開発しました。柱もダブル、梁もダブル、筋交いもダブルにしてこれらをつなぎ合わせることで、荷重分散が図れます。そのため、広いスパンと厳しい荷重条件が求められる非住宅分野、特にオフィスの木造化を可能にしています。
また、ユニット化しているので、建方時の負担軽減にもつながっていますね」(設計した竹中工務店 東京本店 設計部 構造第2部門 構造3グループ長の金田崇興さん。写真)
審査委員の鈴木恵千代さん(空間デザイナー。写真)は、「私は、素晴らしい建築空間を見ていると、感動して涙が出てきちゃうんです。この北海道地区FMセンターは近年の建築空間で最も感動させてくれた一つですね」と評価。
また、北海道地区FMセンターは、ファシリティマネジメント(FM)を行う竹中工務店の拠点でもあります。鈴木さんが「建物を使う人の評価は?」と質問すると、金田さんは「1年を通した温熱関連のデータを取るとともに、社員へのアンケートも実施しています。どちらも以前の建物より快適な空間となっているとの結果が出ています」と機能面での有効性も明かしました。
北海道地区FMセンターの材料は北海道産の木材であり、またダブルティンバーは大規模木造建築を実現するとともに木材の有効活用を促しています。ダブルティンバーの利用や同様の工法がこれからも生まれていけば、よりユニークな大規模木造建築を目にすることができそうです。
家だけでなく里山の暮らしを肌で感じるモデルハウス「さとのえ」
続いては、最優秀賞(環境大臣賞)を受賞した「森の麓の拠点『さとのえ』の取り組み」です。さとのえ、は宮城県の建設会社であるサカモトが、自然環境や里山で暮らした先人たちの知恵を分かち合う場として、同県柴田町に建てた「モデルハウス」です。
「サカモトは木造の注文住宅施工や不動産関連の事業を行っていますが、1800年代に地元で植林事業を開始した坂元植林が母体となっています。つまり、木の地産地消をしている会社です。
さとのえでは、単に私たちが建てた家を見せるだけでなく、自然との共生、地域との共生といったサカモトの企業理念を実現しています」(サカモト代表取締役社長の大沼毅彦さん)
さとのえは、サカモトグループが保有する山林の麓にあります。そのため夏は山からの冷気が麓へと下りてきて涼しさを感じ、また降った雨は地下のろ過を通して敷地内にある井戸の水となるなど、自然の力や循環を感じられる家となっています。
また、先人たちが築いてきた暮らしと現代の技術が融合しているのも、さとのえの特徴。生活空間である母屋と別に「エネルギー棟」が建てられていますが、ここには竈や囲炉裏、薪ボイラーがあり、古き良き日本の生活を直に感じられます。一方で、給湯は屋根に設置されたソーラーパネルから採り入れた熱を利用。大量のエネルギーを利用せず、適度な快適さのある暮らしを実現しています。
審査委員の鈴木さんは、「こんなところに住めたら、どれだけいいだろう」と思わせてくれたとして、次のように話します。
「なぜ、そのように思えたのか? さとのえは、日本の伝統的なスタイル、住まい、自然環境とのかかわり方など、あらゆる方向から研究してでき上がったものなんです。そうすると、昔の人って良い暮らしをしていたんだなと思わせてくれて、さとのえに対して愛着が出てくるのだとわかりました」
なお、さとのえは随時イベントが開催され、見学も可能です。オフィシャルサイトでは見学予約も受け付けていますので、実際の里山の暮らしを確かめてみてくださいね。
大阪・関西万博 特別賞を受賞した3作品は?
最後に、大阪・関西万博 特別賞(国際博覧会担当大臣賞)を受賞した3作品をご紹介します。
まず、「FARM FRONT seki_noen」は、南魚沼市に建てられたお米の直売所で、設計・施工をした同市の米山工務店が受賞しました。
「ブランド」といっても過言ではない、南魚沼のお米。しかし、南魚沼は優良な木の産地でもあることを、ご存じでしょうか。当地の山には、美しく耐久性の高いスギがあり、FARM FRONT seki_noenの外壁材にこれらが使われています。
そもそも、お米は水がなければ成長しません。そして、水は森のある山から大地に染み込み、そして綺麗な水として湧いてきます。つまり、南魚沼のお米と木は、深い関係にあるのです。
2作品目は「蒜山(ひるぜん)そばの館」です。設計したSTUDIO YYと施主の岡山県真庭市が受賞しました。
このそばの館は再建されたもの。2020年に前の建物が火災によって消失してしまったという悲しい過去があります。再建に当たって、真庭市が単にそばを提供するだけでなく地元の伝統や産業に触れられる場にしたいとの思いが、設計の根底にあります。
そして、建物の材料として使われたのが地元産のCLT材(集成材)です。真庭市はこうした林業や木材加工が主要な産業として存在しているだけでなく、間伐材・端材を活用したバイオマス発電を行うといった取り組みをしており、蒜山そばの館もそうした「木の街・真庭」を体現する一つといえるでしょう。
最後に紹介するのは、「ごはんや一芯 京都店」。設計したムーンバランスが受賞しています。
ごはんや一芯は、三連羽釜で炊いたお米と料理を提供する和食店です。柱や床、テーブルなどには滑らかな木肌で知られる北山杉磨き丸太がふんだんに使われています。北山杉は千利休によって見出されて600年の歴史を持ち、桂離宮などでも使われている銘木ですが、今回使われたのはサイズ違いや傷によって燃料にされてしまうはずの素材でした。今では国際的にも使われる言葉になった「もったいない」をデザインとして表し、余すことのない木材の活用をしている点が受賞理由となっています。
建築・空間分野の受賞作の多くは、お店であったり見学ができたりします。もし受賞作にお近くの建物があれば、ぜひ実物を見てくださいね。