広報活動

木育のプロが生み出した「事業を転換させたウッドデザイン力」

インタビュー
ウッドデザイン賞
企業
2024.07.30

「産材を使うと聞けば家を建て、木育ときけば、「木を使い、触れ、遊ぶ」が常識だったとしたら、実は、その常識によって新たな挑戦の可能性をなくしてしまったり、本来の意味や習慣を知る機会がなくなってしまっているかもしれません」と一場木工所の代表、一場未帆さんはいいます。

木材業という山と都市を結ぶ中間の位置にある業種から、新しい発想力でウッドデザイン賞を次々受賞している一場木工所

2023年度奨励賞(審査委員長賞)を受賞した「Tastywood~JAPANESE JUNIPER~」を中心にプロダクトについてお話をお伺いしました。

2023年度奨励賞(審査委員長賞)「Tastywood~JAPANESE JUNIPER」

里山で出会って惚れた「ネズミサシ」

ーまずはじめ一場木工所のことを教えて下さい。

「会社としては58年目ですが、自分が継いでから13年目になります。以前はフローリングなどの一般加工がメインでしたが、既製品等が増え、仕事が減り、父が病気のタイミングで会社をやめるといった時に一年だけやらせてほしいと言って継ぐ形なりました。」

2020年ウッドデザイン賞受賞「一場木工所オフィス」

―社長就任から間もない2016年にウッドデザイン賞を受賞されてから毎年応募されていますね。まず2023年度ウッドデザイン賞奨励賞(審査委員長賞)を受賞したTastywoodJAPANESE JUNIPER~についてお伺いします。この商品をつくるきっかけは?―

インスタントコーヒーをTastywoodで混ぜて飲むと雑味を吸着してくれまろやかになる

「スタートはお酒、ジンです。純広島県産のボタニカルジンの中身を相談されて初めてネズミサシを知りました。スギ・ヒノキだけではなく、松茸が生えなくなって放置されている山の中には多様多種の木があって、その中にはこんな素晴らしいポテンシャル秘めた木もあるんだと知りました。」

―商品化にふみきったきっかけは?

「世界的バーテンダーで広島のボタニカルジン「桜尾」のアンバサダーの野間真吾さんと知り合ったのがきっかけでした。ジンには実のみ使用しているが、木部も活用したいと相談を受け、加工してみると、私自身が、材の香りと材面の光沢や色合い良さに強くひかれました。また、非常に靭性が高いこともTestywoodの開発のポイントになりました。」

―「ネズミサシ」のポテンシャルとは?―

まず、捨てるところがないという価値があります。野間さんの依頼でジンフェスで使用するネズミサシで作ったマドラーを試作したのですが、そこでお酒を混ぜると味に変化があることが分かりました。ただのマドラーに付加価値があり、小さな細い木が千百円で売れ収入が得られると分かれば、山で作業する人も頑張って伐ってこようとなり、森林整備もすすみ相乗効果があると思いました。ネズミサシは北欧ではカトラリーの材料して使われてますが、日本では木部は昔は床柱などで珍重されましたが、現在は杭かチップになっています。」 

―実際商品化してみて、反応はどうでしたか?

「今までと違う食に関わるジャンルで、表現が難しく伝わりづらかったのですが、味がまろやかになること、永く使用できることを打ち出したら、売れるようになりました。」

all HIROSHIMAのポテンシャル

は世界でも認められたボタニカルジン「桜尾」の素材はオール広島県産

「桜尾」はイギリスの権威ある賞The Gin Masters2022dで最高位ある「MasterMedai」を受賞しています。味を決めるキーマンでありSAKURAOアンバサダーの野間さんにTestywoodの可能性を伺いました。

世界的に有名なバーテンダー野間真吾さん

―アンバサダーとして、Testywoodの可能性はどのようなところにあると感じてますか?

「テイスティウッドは飲み物をワンランク上のプレミアムなものに変化させるサスティブル&新たな嗜好アイテムです。お酒に漬け込んだりするウッドスティックのような物はいままでも多く存在しますが、様々な飲み物を混ぜることも含めた使用方法は他にないのではないでしょうか。

―このプロジェクトにご参加された感想を教えて下さい。

「ポテンシャルの高い樹木でありながら、現在ほとんど利用されてないというのは『新たな価値』として里山の資源が、人々には新鮮なイメージや香り、味わいとして伝わって行くと思っています。半永久に使用できるという、時代に合わせたサスティナビリティであることも今回のプロジェクトにおいて非常に大事なことでもあります。現在は外国のお客様が特に興味を示して頂いています。広島の里山資源が世界に広がればと考えております」

ネズミサシが自生しているところはもともと土砂災害が多い場所で、松枯れのこともあり林業が成り立たないところが多く自然災害が懸念されるといいます。

「新たな価値を生み出すことで、資源が継続していくようにすることもまたウッドデザインと考えています。」と一場さんは語ります。

木から教えてもらうのでなく、「木をどうにかしたい」という事に価値がある

8年間ウッドデザイン賞を受賞されている作品の中で、一番反応が大きい受賞作品は?

「「森のお店屋さんごっこセット ひなたぼっこマルシェ」ですね。県木連のプロポーザルで県産材でおもちゃをつくる企画に応募しました。キッチンと食材を見よう見真似でつくったのですが、あまりかわいいものできず、納得が行くものを作りたいと考えたのが、マルシェです。最初は販売什器のつもりで、地元の商業施設においてみたところ、この什器ごと販売したらとの声があり、保育園や幼稚園に販売ルートのある商社に扱ってもらいました。」

―反応はありましたか?

そこから行政や保育所の売り込みが出来て2,3年のうちに50台くらい売れました。理由は置いておくだけでかわいい、ということと、飾っておきながら片づけられる、という事。見せたまま楽しんで片づけられる、そして軽いので扱いやすい。塗料も安全。オトナからも人気がでて、おもちゃを貸し出してほしいという要望もでてきました。」

デザインのかわいさで人気のマルシェ。ひとつひとつ丁寧に手仕上げをしている。

―販売カタログなどありますか?

特にありません。基本セット価格は決めていますが、予算に合わせて食材などの提案をしたり、時間さえもらえれば地域産材でもつくる。このデザインでつくりたいと言えばロイヤリティをもらって地域で製造をしてもらえるようにもしています。

日本全国のいろいろな「木をどうにかしたい」という事に価値があると思います。」

マルシェ台は様々なニーズにこたえるため、今後スモールサイズも検討中だという

林産地を応援し、人を繋げ、里山が潤う循環を

山が枯れると笹山になってしまう。しかし、山にはスギ・ヒノキ以外にも使える価値ある木がたくさんあると一場さんはいいます。

―木材加工した商品に付加価値を付けるためにどんなことを実行されてますか?

「プロモーションですね。うちのこころんプールには多様な木が入っています。山の木もネズミサシもリンゴやレモンや街路樹の木もいれています。こころんプールで木を知ってもらい、その価値を一緒に見つけてもらうのです」

こどもにはもちろん、大人にも大人気の「こころんプール」。様々な種類の樹木のつみきが入っている

―プロモーションは主にイベントやワークショップだそうですね。

「木を知って、価値を感じてもらう事です。体感した肌ざわりや香り、驚きなどは長期記憶に残りやすく、一緒に聞いた話で次の購入動機にどこの木で、誰が作ったものかに対する意識が高まるという試験結果も持っています。

ワークショップは木や森林の事を伝える大切な機会と考えているという

―付加価値を伝えるために、他の受賞作品のアドバイスもされているそうですね。

「あるコンテストで審査員をしていたのですが、木の使い方が分からない方もいるので

木材の使い方や、素材の提供をしたりしました。」

これもネズミサシやホオノキなど里山材を利用して新たな価値を創造する取り組みで、県産材と県内技術の継承と普及啓発のひとつといいます。

工場にはさまざまな木々があちらこちらに置かれていた

支援で受賞した作品の一つ2020年ウッドデザイン賞特別賞 木のおもてなし賞を受賞した「HEXa(ヘキサ)」の高田英明さんにもお話を聞くことが出来ました。

―本業は建築設計とのことですが、なぜプロダクトも挑戦したのですか?

「木は生きているので本当に難しいんです。朽ちるし風化することも難しい。それぞれの場所で使う木が違う。プロダクトをやると0.1ミリの世界。木を知らないと作れないのでそれがきっかけです。」

―材の使い方などで関わった一場木工所の魅力はなんですか?

「一場さんですね。本当は材だけ仕入れればいい、でも一場さんは木のプロとして素材の性質や使い方を教えてくれ、素材が必要な時に提供してくれます。木をもっと使ってみたいと思わせてくれる事が魅力です。」

ネズミサシでつくられた「HEXa(ヘキサ)」

ウッドデザイン賞を通じて里山に大きな循環をつくる

「木のプロ」としても活動している一場さんにウッドデザイン賞へ応募する魅力を伺いました。

―ウッドデザイン賞を受賞されて良かったことなど感想をお願いします。

「うちのように女性4人の小さな会社は、商品のプロモーションが大切です。木がもっていねずる力に頼るのではなく、新たに木の付加価値を創造し知ってもらう。そしてリピーターを増やす。その時に自分達の取組や新たな価値を評価してもらうことも、消費者が選んでくれる信頼になります。

工場ではスタッフが鮮やかな手つきで次々と製材作業をすすめていた

ウッドデザイン賞を受賞したことでいろいろなヒトやコトに繋がりご縁がひろがります。そしてまた新たな木の価値を創造することに発展するので、またウッドデザイン賞にチャレンジしたくなる。木のことを伝えることが、森林に目を向け、環境を大切にし、山を守り、人々が安心・安全に生活でき、地域の経済が潤い、森林にお金が届くことにつながる。小さな会社がウッドデザイン賞にトライすることで、里山に大きな恵みが還ってくる。この当たり前の循環のための行動の原動力の一つとなっています。」

里山の中にある会社だから常に感じられることがある…と一場さん

木のことを伝えられる会社でありたいという一場さん。

その先にはヒトや里山の笑顔の未来が見えるようです

【関連サイト:一場木工所受賞歴】

一場木工所 会社HP

https://www.ichibamokko.com/

2016年 広島県産ヒノキの木材圧密処理による視覚・嗅覚の保持と商品化研究

https://www.wooddesign.jp/db/production/637/

2017年 もりのらぐ

https://www.wooddesign.jp/db/production/812/

2018年こころんプール

https://www.wooddesign.jp/db/production/1038/

2018年ウッドリフレッシャー

https://www.wooddesign.jp/db/production/1077/

2019年パンdeドミノ

https://www.wooddesign.jp/db/production/1218/

2020年一場木工所オフィス

https://www.wooddesign.jp/db/production/1295/

2020年 HEXa(ヘキサ)

https://www.wooddesign.jp/db/production/1419/

2020世界的に価値の高いクラフトジンの商品化を通じた里山との関係構築 ~ネズミサシの活用と持続的な育成~

https://www.wooddesign.jp/db/production/1465/

2021CLTブロックを活用した低環境負荷低温乾燥施設の開発

https://www.wooddesign.jp/db/production/1672/

2022森のお店屋さんごっこセット ひなたぼっこマルシェ

https://www.wooddesign.jp/db/production/1839/

2023Tastywood JAPANESE JUNIPER

https://www.wooddesign.jp/db/production/1880/

8.8.働きがいも経済成長も
9.9.産業と技術革新の基盤をつくろう
12.12.つくる責任つかう責任
15.15.陸の豊かさも守ろう
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