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ウッドデザイン賞2022 奨励賞(審査委員長賞)『 木材の未来を拓くゲノム診断技術 』をご紹介!

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2023.08.14

DNA情報を活用した『 ゲノム診断技術 』で効率的な育種を実現し、木材の未来を拓く!

作品概要

木材の可能性を拡げるために、樹木の個々の性能を診断する技術の基盤を構築しました。

現在、横架材のような強度が求められる建築部材には、主に外国産材が用いられています。さらに、今後、中大規模の木造建築の普及を図っていくことを見据えると、より多くの高強度木材が必要になると考えられます。

木材強度を高める手段として、育種による強度に優れた新品種の開発は有力な選択肢の一つであり、製材時の木材加工による改質のようなエネルギー投入が不要である利点を有します。ただし、林木の育種には時間がかかることが大きな課題であり、特に木材強度に優れた品種を選び出すためには、検定林(遺伝的な特性を調べるための試験用の林分を指す)で候補となる試験系統を数十年もの期間育て、その強度性能を実測評価する必要があり、一から新たな品種をつくりだすのは現実的ではありませんでした。

そこで、私たちはゲノム情報を基に個々の苗木の将来の木材強度を診断することで、木材強度の高い林木品種の早期作出に取り組んでいます。本技術によって検定林で試験系統を育て、強度性能を評価する工程を省略することができます。これによって、育種に要する期間の大幅な短縮が見込まれます。新品種の開発期間の短縮化によって、これから必要とされる木の性能を早期に実現させ、木の利用可能性を拡げられると考えています。ひいては、森林および木材の付加価値を大きく向上させ、サーキュラーバイオエコノミーの実現への貢献にもつながると考えられます。

受賞作品名称木材の未来を拓くゲノム診断技術 
受賞者住友林業株式会社
北海道立総合研究機構 森林研究本部 林業試験場
北海道立総合研究機構 森林研究本部 林産試験場
表彰部門ソーシャルデザイン部門
対象分野調査・研究分野
サブカテゴリー調査・研究/木材利用のマーケティング・販促に関する調査・研究

評価ポイント

効率的かつ市場の需要に応える木材の供給と利用に貢献する先進的な技術開発である。本作品の研究対象はカラマツだが、多様な木材調達の選択肢が増えることで、多様な木造・木質化の設計や開発の幅が広がっていく。

ゲノム診断を行うためにカラマツの組織から抽出したDNAを取り扱う実験の様子

ゲノムは生物が持つ全遺伝情報でありDNAの塩基配列としてデジタルに表現できる情報です。カラマツの中でも個々の樹木でわずかに異なる塩基配列の差が木材の性質のバラツキに反映され、その対応を解明することでゲノム配列から木材強度を診断できると考えられます。ゲノムや実測した木材の性質に関する情報を高解像度でデータ化することにより、木材強度に影響する要因とその関係性を精緻に解析します。


本研究で対象としたカラマツ属の雑種品種であるクリーンラーチの苗

現在、カラマツは北海道での植栽に最も多く用いられています。このカラマツは、かつては乾燥時のねじれが欠点となり、主に梱包材としての利用に限られていましたが、もともと強度性能が高いという樹種特性があったため、材の成熟部が増えてねじれの欠点が解消された現在、さらに強度性能を高めることによって建築用途への利用拡大が期待されています。中でも特に強度の高いカラマツ雑種の品種(クリーンラーチ)を基に、ここからさらに木材強度の高い品種を選抜することにより、横架材や中大規模の木造建築にも利用できる木材の生産に繋げます。国産材の用途を拡大することにより、日本の森林や私たちの生活がより豊かになるような社会の実現に貢献します。

関連リンク

1) 「カラマツ類の材質及び強度的性質」 林産試だより2022年6月号 (2022. 6)

http://www.hro.or.jp/list/forest/research/fpri/dayori/2206/2206-2.pdf

2) カラマツ類の材の強度的性質に関わる遺伝的要因」 光珠内季報,No.203 (2022. 7)

https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/kiho/pdf/203-16.pdf

3) 北海道立総合研究機構プレスリリース (2022. 11. 10)

https://www.hro.or.jp/info_headquarters/domin/press20221110.pdf

9.9.産業と技術革新の基盤をつくろう
15.15.陸の豊かさも守ろう
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