調査研究
【視察報告】6月26日,27日実施 「木の魅力、京都の深みに触れる2日間」京都視察会報告書(2日目)
6月26,27日の2日間、一社)日本ウッドデザイン協会(以後JWDA)主催、北山杉利用推進プロジェクト共催「木の魅力、京都の深みに触れる2日間」視察ツアーが開催され、2日目の27日、北山杉視察勉強会として京都北山杉の里総合センターおよび中川地区の見学会が行われました。
見学会2日目はJWDA会員様32名が参加し、株式会社奥谷組展示資料館視察、京都市庁舎茶室、北山杉の里・中川地区を見学しました。
■開催概要
日程:2024年6月26日(水)27日(木)
場所:京都大学、株式会社奥谷組展示資料館、京都市役所、京都北山杉の里総合センター、京都市中川地区
■スケジュール
▼6月27日(水)
9:30~10:30 株式会社奥谷組展示資料館見学
展示資料館– 株式会社奥谷組(okutanigumi.jp)
11:00~11:45 京都市役所庁舎内茶室見学(非公開施設)
解説:株式会社千本銘木商会専務取締役・銘木師 中川典子氏
13:00~15:30 北山杉視察勉強会
「京都北山杉の里総合センター」施設概要説明
中川地区見学
17:00 解散
17:00~17:30 ザ・サウザンド京都 KOMOREBIDO見学(希望者のみ)
■1000年の歴史を守る。社寺建築・株式会社奥谷組展示資料館及び社屋見学
株式会社奥谷組は、千数百年にも及ぶ長い歴史を持ち壮大なスケールと高度な工匠の技術で建築された京都を中心とした社寺の保存・改修を中心に施工を行っています。今回は、社屋および資料館を株式会社奥谷組 代表取締役社長の千田真由美氏に案内していただきました。
▽創業は明治6年。
▽木材の確保についての説明を受ける
スケールの大きい歴史的寺社の改修や保存には、それにあう素材を持つことが必要となります。国内外さまざまな原生林や天然林などから用途にあう木材を探し、使う部分だけ仕入れるという苦労があるといいます。
▽木材の確保、備蓄、乾燥をふくめ製材から加工、取付まで、木工事のすべてを自社の工匠によって行う一貫システムを確立している。
▼奥谷組展示資料館
工匠のかくし技継手・仕口の展示と、様々な技術に対応する大工道具、模型や設計図面などが展示されています。修繕や補修のときに回収した儀式祭具や瓦、金物なども展示されており、その大きさや細かい丁寧な作業に関心が集まりました。
▽展示資料館内
▽技法の説明を受ける
▽日本の技術の高さを表す大工道具
▽多くを手掛けていることを表している
■京都市役所市庁舎 茶室見学(非公開)
歴史的・文化的価値の高い1927〜31年竣工の本庁舎(設計:京都市営繕課+中野進一,武田五一監修)を免震レトロフィット化・保存再生すると共に,西庁舎・北庁舎を建て替え。
文化庁京都移転を契機として文化振興に取り組み、市役所本庁舎リニューアル工事の際には「茶室」を設けました。国内外の来賓らを受け入れる「正庁の間」の控室などとして使われています。
▽市庁舎全景
茶室の説明は1日目に引き続き、株式会社千本銘木商会 専務取締役 中川 典子氏
木材の基礎を学びたいと入社した若手社員とともに、北山杉の魅力から茶室に使われている工匠の技、茶の湯のマナーなどを交え茶室の魅力をお話しいただきました。
▽入口は庁舎内を感じさせないような詫び寂びを感じさせる木づかい
▽水屋も備えられています
▽「正庁の間」 茶室は多くの要人を迎え入れる「正庁の間」の控室として作られました。
▽庁舎前での記念撮影
歴史的建造物を多数有し、日本文化の発信の中心でもある京都市の取り組みを視察できました。
日本のおもてなし文化の発信と同時に、日本における建築物の魅力や木材利用の歴史などが十分伝わる施設でした。
■「川上」の北山杉産地・中川地区 京都北山杉の里総合センター見学
京都府の「木」でもあり、千利休が好んだ北山杉の里・中川地区の視察を行いました。
北山杉の故郷、中川地区は山が美しく水源豊かで一年通じて気候も良く、杉の成長には適した条件がそろっているものの、急な地形の連続なため、木を大きく太く育てることには不向きという困難がある地域。先人たちの逆転の発想で杉を細く長く育て、近い都で使ってもらえるものを考えたのではないかいうことです。
▽北山杉林業
□視察スケジュール
① 京都北山杉の里総合センターにて北山杉の歴史・概要説明
② 枝打ちの見学
③ 皮むき、丸太磨きの体験
④ 展示倉庫の見学
⑤ マザーツリー(最古の北山杉・樹齢約600年)の見学
⑥ 大台杉(樹齢約450年)の見学
▼座学:中川地区の歴史と北山林業について
急斜面の山間の中川地区では農業を営むことも困難で、まさに林業で生計をたてることしかなかった村だったということが数寄屋造りや茶室に欠かせない高級素材・北山杉を生みだしたということです。
男性が林業に従事し女性が仕上げをして都に売りに行く。伐り出しの運搬と、女性でも運びやすいサイズを兼ね、商品として売り出すことができたといいます。
▽京都北山杉の里総合センターでの座学。
▼枝打ち見学と磨き丸太体験
枝打ちにつかう道具や手作りのはしごの説明を受け、枝打ちの実演を見学しました。
現在、枝打ちを行える熟練の職人は10名程度と後継者不足になっています。 ハシゴを使わず木に登れる熟練の技に、見学者からは驚きのどよめきが上がりました。
▽北山杉で作られたはしごを使う。杉の育成具合により2m~6mの長さより選択して使用する。
北山丸太の特徴は木肌の美しさです。
さらに、光沢を出すための仕上げの磨きには近くの「菩提の滝」で採取した傷がつきにくい特別な砂を研磨剤として使いました。現在は皮をむく作業は高圧の水圧機を使ってるということです。
▽丸太の皮むき・磨き体験
本来は秋から冬(9月~11月)にかけて伐採し皮をむき、そのあと一か月の天然乾燥の後1月から3月に磨きをかけさらに半年以上倉庫内で乾燥させる北山杉。美しく仕上げるために自然の条件が欠かせない作業ですが、近年は温暖化の影響で作業時期がずれる場合があると言います。
展示倉庫内では、様々な種類や形の北山杉を見学。建築建材としてだけではなく、店舗オブジェやインテリアのプロダクトの材料としても活用されているということです。
移動できる茶室を作り展示会などで活用。
▼マザーツリーの見学
中川八幡宮内の樹齢600年といわれる北山杉の母樹の見学へ。真っすぐに伸びた北山杉の木々たちの一部はこの遺伝子を継いだ子孫とのことです。
▽中川八幡宮。皇室の訪問を受けた植樹がある。
▽北山杉の母樹。パワーをもらうために母樹に触る参加者も
「シロスギ」は小花粉の杉とのことで、北山杉には花粉を出さない遺伝子が(機能が)潜んでいるということです。杉=花粉症の元凶というイメージもあるため、杉の産地の見学にためらいを覚える現代人も多いということですが、この美しい景色を求め、海外からカメラをもって多くの外国人が訪れるそうです。
ただ、今後環境が代わり、木の機能が弱り、繁殖力を求めるようになったり、現在のように枝打ちなどが出来なくなって放置されていくと、実をつけ花粉の飛散がはじまります。
環境のためにも、北山丸太を積極的に使ってもらい、植え替えていく必要性を感じます。
▼大台杉の見学
▽大台杉は樹齢450年
「台杉仕立て」という萌芽更新を利用した育林技術です。現在では海外からもサスティナブルな育林技術として注目を集めています。
この「台杉仕立て」という育林方法は世界でたった一つのユニークな「林業のウッドデザイン」なので、後世に残していきたい財産との事です。
【参考資料】
京都北山丸太生産協同組合
https://www.kyotokitayamamaruta.com/
【参考】
京都・北山杉 PR BOOK」の刊行について
https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000322240.html