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【視察報告】6月26日,27日実施 「木の魅力、京都の深みに触れる2日間」京都視察会報告書(1日目)

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2024.08.21

62627日の2日間、一社)日本ウッドデザイン協会(以後JWDA)主催、北山杉利用推進プロジェクト共催「木の魅力、京都の深みに触れる2日間」視察ツアーが開催されました。

1日目は京都大学百周年記念館 国際交流ホールにて、第一部は京都大学大学院 仲村匡司教授と京都工芸繊維大学 魚谷繁礼教授よる木材にまつわる最新トレンドについての講演、第二部は京都市の取組発表のセミナーが行われました。

2日目は京都の深みの魅力を学ぶ視察会として、社寺建築・株式会社奥谷組展示資料館見学、京都市役所庁舎茶室見学と、京都府の木でもあり、茶室や数寄屋建築に欠かせない高級銘木・北山杉の里、中川地区の視察と勉強会を行いました。

■開催概要

日程:2024626日(水)27日(木)

場所:京都大学、株式会社奥谷組展示資料館、京都市役所、京都北山杉の里総合センター、京都市中川地区

■スケジュール 1日目

▽626日(水)

11:0012:45 ウッドデザイン賞受賞作品視察「ごはんや一芯」(希望者のみ

13:00~ 講演会および京都市木材関係者との交流:会場 京都大学百周年記念館

    第一部

講演① 「木材と人:木が人にもたらすウェルビーイング」

    登壇者:京都大学大学院教授 仲村匡司氏

14:05~ 講演② 「山と都市/木と建築」

    登壇者:京都工芸繊維大学特任教授 魚谷繁礼建築研究所代表 魚谷繁礼氏

15:15~ 第二部 京都の木材関係者と日本ウッドデザイン協会との交流会

15:1516:45

    1.京都市の取組発表

      登壇者:株式会社千本銘木商会  専務取締役・銘木師       中川典子氏

          YOSHIHARAGUMI INC.  代表          吉原雅人氏

          株式会社torinoko    代表取締役・デザイナー    小山裕介氏

(16:4517:05)

     2.日本ウッドデザイン協会の取組発表

17:30 終了

■「木材」の可能性を学ぶ2つの講演会

視察ツアーの1日目は京都大学にて木材についての知見を深めるための講演と京都市の木材の取組の情報提供が行われました。通常、木材のもつ魅力と特徴として伝えている機能性のエビデンスや、木材の利用価値や可能性の講演を受けました。

また、歴史都市における都市空間の変容や、建築物の保存、京都市における木材、特に世界に誇る北山杉の継承の在り方などを学術的な見地と、京都市の取組についての情報交換を実施しました。

▼講演①「木材と人:木が人にもたらすウェルビーイング」

京都大学大学院 農学研究科 森林科学専攻生物材料工学講座 教授  仲村匡司氏

講演内容

日本人は木の家が好き?

木材への親和感

「木の良さ」につながる木材の性質

木を沢山使えばよいのか?

木造人工衛星プロジェクト

森林の生態系のやその役割、また森の恵みである木材の研究をはじめとして、あらゆる角度から森林に関する研究を行っていく森林科学。「木質感」という言葉が表すように、日本人の木への親和性の高さの根拠はどこにあるか。

「木の良さ」につながる木材の性質の根拠を画像工学や認知科学などの手法を取り入れ、実証した結果を学びました。

国産材利用普及への理解と効果的な木材利用へのアドバイスとして、量的発想ではなく質的発想の重要性を多面から検証し、「デザイン」は実現するための感性価値という講演をいただきました。

木材の可能性としては、地球上だけではなく京都大学と住友林業が2020年より取り組んできた「宇宙木材プロジェクト」の実験で、木材は真空中(宇宙環境)でも耐性があることが証明され、アルミ等の金属と比較しても遜色がない活用ができる可能性がある素材だといいます。

▽スライドで紹介された木材性キューブサット「LignoSat」

地球上では短所である木材の性質が、水分のない宇宙空間では寸法が狂わない・酸素がないから燃えない・菌が生きられないので腐らないという長所にかわる。木造のキューブサット「LignoSat」の打ち上げは木材の宇宙空間での活用の可能性を広げるだけでなく、他の惑星で育林をする「宇宙林業」の可能性をさぐるきっかけになるといいます。

▽黒田工房で行われた木造ボディの設計会議の様子

宇宙で林業が可能となることで、業界でも新たな分野の誕生が期待され注目されていくのではないかと期待が高まります。

【参考】世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了~木材用途の拡大、木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して~

https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-05-16-1

▼講演②「山と都市/木と建築」

登壇者:京都工芸繊維大学特任教授 魚谷繁礼建築研究所代表 魚谷繁礼氏

講演内容

京都型住宅モデルについて

永倉町の住宅 等

歴史都市における都市の構造や現状の調査研究の実態を、京町家や数寄屋建築などの既存建築の改修事例や増築事例などの講演。

都市や地域にある古き街並みを時代に合わせ変容させるためには、すべてを壊しマンションなどに代わってしまうような時代を断ち切る建築ではなく、どのように継承していけるのか、町家の改修や街区計画などを研究しながら探っているといいます。

「建築はその場所にあり続けて時間を重ねていくもの。」

国産材活用の糸口としては、都市と山の健全な関係を築き、日本の山の中で林業にふさわしい山は林業として活用していくことが必要とのこと。

地場産業に反映していき、地域材だけに縛られず、その周辺も活用していくことで需要を伸ばしていくことができ京都の街で使用していく。北山杉のような特徴のある木材は保護していくことも必要だといいます。

▽真庭市にある隈研吾設計のGREENable HIRUZENのCLTパビリオン「風の葉」外部におかれた切り株イス。多様な楽しみ方ができる。バックにみえるのはウッドデザイン賞2020年受賞優秀賞 (林野庁長官賞) を受賞したCLT PARK HARUMI」。東京・晴海から移築された。

【参考】京都工芸繊維大学

https://www.design-architecture.kit.ac.jp/ja/faculty/p.php?c=1

■第2部 京都市の取組

京都市より、「北山杉利用推進プロジェクト※」の説明をはじめ、創業300年の老舗「酢屋」の株式会社千本銘木商会 専務取締役・銘木師   中川 典子氏から京都の木材利用の現在の紹介や、株式会社torinoko 代表取締役・デザイナー小山裕介氏より北山杉を活用したプロダクトの説明、YOSHIHARAGUMI  INC.  代表 吉原 雅人氏による建築における北山杉の活用の紹介など、京都における北山杉活用の現状や取組の情報提供が行われました。

 ▽京都市産業観光局農林推進室 林業振興課 木の文化推進担当課長 林達朗氏

※北山杉利用推進プロジェクトとは、20218月に京都市と北山杉利用者(株式会社内田洋行、菊池建設株式会社、ナイス株式会社、三井住友信託銀行株式会社)、北山杉生産者(京都北山丸太生産協同組合、京北銘木生産協同組合)が「建築物等における北山杉の利用促進協定」を締結し、京都府の木でもある「北山杉」の利用促進を図る取り組みを進めています。


【参考】京都市情報館 「建築物等における北山杉の利用促進協定」
https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000303267.html

▼京都の銘木店からみる「木材」の事情

株式会社千本銘木商会 専務取締役 中川 典子氏

創業300年の老舗「酢屋」という屋号を持つ株式会社千本銘木商会の中川氏は、全国でも初めての女性の「銘木師」という木材のプロとして幅広くご活躍されています。

木が暮らしを作ると言われるように、丸太と板の調和や美しさにこだわるのは日本ならではの文化。四季や風土にあった木材や丸太を使う「木の文化」は環境との調和を求め、人の健康への恩恵を受け、自然と共生することを考えるこれからの時代に必要な文化だといいます。

▽株式会社千本銘木商会 専務取締役 中川 典子氏

▽銘木師として日本の木の文化や魅力を発信し、次世代の育成に尽力している。

銘木や日本の木の美しさやデザインの良さ、人の暮らしの中に一本の北山杉や和室文化の良さを伝えていくことが課題だと感じました。

▽6代目酢屋冨兵衛が坂本竜馬と海援隊をつないだご縁で11月15日の命日に竜馬祭を行っており、国内外から竜馬ファンが訪れる

【参考】京都酢屋 株式会社千本銘木商会
https://kyoto-suya.co.jp/senbon/intro.html

▼数寄屋ベンチャーとして北山杉活用の新たな挑戦

YOSHIHARAGUMI  INC. 代表 吉原 雅人氏

日本文化として貴重な数寄屋建築が激変している一因は、以前ならあった長唄や三味線などの趣味や,数寄屋建築と一体となる庭を楽しむ風情、道具としての茶室を備えるなどの文化が減っていることも関係しているということ。

▽YOSHIHARAGUMI INC. 代表 吉原 雅人氏

日本人として、生活の一部に詫び寂びのような和文化の風習を取り入れることで、和の美への理解につながり、北山杉のような美しい木材の需要が増えるのではと考えます。

数寄屋建築は趣味などを体感しながらデザインをする世界で、現代のインスタ映えだとか、環境負荷などを考えながら提案するものではなく、全身全霊クライアントのために何をするかという事をかなえるために設計するものだと言います。

東京・表参道のセレクトショップShinzoneの店舗デザインを請け負ったときの経験から、北山丸太を現代で使用していくためには北山杉を熟知し技術デザインに反映させ、大工と建築家と施主が三位一体になって作り上げることが必要と実感しているといいます。

                                 ©京都市/京都・北山杉PR ▽BOOKYOSHIHARAGUMI INC.がデザイン・施工をした南青山のセレクトショップ「Shinzone表参道本店」 

日本人として、生活の一部に和文化の風習を取り入れることで、和の美の文化の理解につながり、北山杉のような美しい木材の需要が増えるのではと考えます。

【参考】YOSHIHARAGUMI INC.
https://www.yoshiharagumi.co.jp/

▼プロダクトデザインと木材

株式会社torinoko  代表取締役・デザイナー 小山 裕介氏

木材利用を促進するためには大きな建築で使用することが近道ともいえるが、身近な木を使ったプロダクトをつくることで興味を持ってもらったり、ワークショップなどを体験したり考えたりすることで、木への親和性を促進することが必要とのこと。

▽株式会社torinoko 代表取締役・デザイナー 小山裕介氏

一般的に木をつかうことが森林保全につながるとは急には結び付かない。自分の手でものづくりに触れることで木の扱いやすさや香りのよさ、素材の心地よさが伝わりやすい。

身近な木への興味をもってもらうことでそこから木そのものへの関心が高まり、森林にまで視野が広がっていくという実感を提供できるといいます。

▽日常使うものに北山杉はじめ地域産材を

製品に使用できないB材や端材などの材料の採用や大量に生産されている素材を利用することで材料コストを抑えるなどを行い、課題解決を実現したそうです。

無垢の木材への関りをどのように増やしていくかが求められている課題だと感じました。

▽「木と暮らすデザインKYOTO」(プロダクトデザイン:株式会社torinoko)

【参考】

ウッドデザイン賞2021年 優秀賞 (林野庁長官賞)受賞 木と暮らすデザインKYOTO(京都市/株式会社サノワタルデザイン事務所)

https://www.wooddesign.jp/db/production/1490/

▽当日配布された「京都・北山杉PRBOOK」。北山杉の歴史と特性、老舗の旅館から最新の店舗までの幅広い使用事例紹介や使い手へのインタビュー等が掲載されている。

京都府の木でもあり、産地中川地区を有する京都市では、高級銘木・北山杉を発信するべく様々な角度から活用や保存がされていることがわかりました。

歴史的神社仏閣や茶室、数寄屋建築、町家など、さまざまな木造建築の文化があり、川上から川下までが循環してその街区の成り立ちを受け継いできた京都の木材についての考え方は、これからの持続可能な社会を実現させるために学ぶべきところが多い都市だと感じました。

【参考】
■京都市情報館 「京都・北山杉PR BOOK」の刊行について
https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000322240.html

8.8.働きがいも経済成長も
9.9.産業と技術革新の基盤をつくろう
12.12.つくる責任つかう責任
13.13.気候変動に具体的な対策を
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