調査研究

【開催報告】令和7年度森林・林業白書セミナー開催報告

2026.07.15

令和7年度 森林・林業白書セミナー 開催報告

開催概要

日本ウッドデザイン協会は、2026年7月13日(月)、経団連会館において「令和7年度 森林・林業白書セミナー」を開催いたしました(会場・オンライン併催)。

本セミナーは、白書の解説にとどまらず、専門家のお話とともに、木からはじまる日本の未来を構想する場として企画したものです。「木は、材料ではなく、地域社会のOS(基盤システム)である」。この視点を軸に、行政と研究の両面から、森林資源の循環利用と木材の新たな可能性を見つめ直しました。当日は、林野庁による白書の解説と、研究者による講演の二部構成で実施いたしました。

このたび、当日の二つの講義を動画で公開いたします。ぜひご覧ください。

講義① 「令和7年度 森林・林業白書」のご解説

登壇者:市川 隆史 氏(林野庁 林政部 企画課 年次報告班 課長補佐)

森林・林業白書は、森林・林業基本法に基づき毎年公表される、我が国の森林・林業に関する年次報告です。令和7年度白書の特集テーマ「森林資源の循環利用の確立に向けて 〜木材利用と再造林をつなぐ〜」を中心に、政策の最新動向を、豊富なデータとともに分かりやすくご解説いただきました。

はじめに、脱炭素社会の実現や生物多様性の保全へと向かう世界的な潮流が示されました。国連気候変動枠組条約や生物多様性条約のもとで国際的な取組が加速し、近年では、気候関連財務情報開示(TCFD)や自然関連財務情報開示(TNFD)といった、企業に気候や自然への影響の開示を促す枠組みの整備が進んでいます。2025年11月のCOP30では「責任ある木造建築の原則」が公表されるなど、二酸化炭素を長く固定できる木材への期待は、国際的にいっそう高まっています。翻って我が国では、戦後に植えられた人工林の多くが伐採に適した時期を迎え、資源としての厚みを増しています。若い森林ほど二酸化炭素をよく吸収することから、育てた木を使い、その跡地にふたたび植えるという循環は、脱炭素の観点からも理にかなっています。身近なところでは、花粉の少ない品種への植え替えのように、森林づくりは私たちの暮らしとも深くつながっています。今こそ、育てた木を「使い」、使ったあとに「植え直す」循環を確立すべき局面にあることが、データとともに示されました。

こうした背景を踏まえ、白書は「循環」を軸に三つの取組を整理しています。第一は、木材利用の拡大です。かつては建築物の不燃化・非木造化が重視されていましたが、建築基準の合理化が進んだことで、中高層建築や、学校・オフィスといった非住宅分野の木造化、太い柱や梁がとれる大径材の活用が広がってきました。近年は都心部でも木を用いた中高層のビルが登場し、木材が現代建築の主役になりうることを示しています。木は、建築の骨組みだけでなく、家具や内装、木質バイオマスによるエネルギーとしても用途を広げており、利用のすそ野は着実に厚みを増しています。第二は、再造林の推進です。主伐後にふたたび苗木を植える「再造林率」が五、六割程度にとどまる現状を踏まえ、所有者ごとに分かれた森林を取りまとめる集約化などを通じて、伐ったあとに確実に植え直す仕組みづくりの必要性が語られました。再造林には、苗木や担い手の確保、シカなどによる食害への対策、費用の負担といった課題も伴います。第三は、この二つを「つなぐ」取組です。木材の価格には、植えて育てるためのコストが十分に織り込まれていないという課題を挙げ、川上から川下までの関係者が育成コストへの理解を分かち合い、適正な価格を形づくることの重要性が強調されました。たとえば、主伐で得た収入の一部を確実に再造林へ回せるよう、価格と制度の両面から山側を支える発想が求められます。

最後に、新たな森林・林業基本計画「百年つづく『森の国・木の街』へ」の要旨が紹介されました。森林を守り育てる「森の国」と、木を上手に長く使う「木の街」。この二つを車の両輪として、森林・林業・木材産業の好循環を築き、地方に雇用と活力を生み出しながら、日本列島を強く豊かにして百年先へつなぐ。森を守ることが木を使うことにつながり、木を使うことがまた森を育てる。その好循環をどう社会に根づかせるかという展望が、確かな裏づけとともに描き出された、示唆に富むご解説でした。

講義② 講演「森林資源の価値変化による社会システムの再設計(価値変換)」

登壇者:足立 幸司 氏(秋田県立大学 木材高度加工研究所)

森林の多面的な価値を出発点に、「判断の主体を変えれば、価値も変わる」という視点から、木材利用の可能性を根本から問い直すご講演をいただきました。

森林は、木材を生み出すだけでなく、雨水を蓄える水源の涵養、土砂災害の防止、生物多様性の保全、二酸化炭素の吸収、そして快適な環境や文化の形成など、数多くの価値をあわせ持っています。足立氏は、これらの価値が「どの立場から眺めるか」によって大きく変わることを示されました。たとえば、規格に合わない、短い、節があるといった理由で、これまで生産者の側では扱いにくいとされてきた木材も、使い手の側に立てば、一点ものの表情や温かみとして新たな魅力を帯びます。同じ一本の木でも、効率や均質さを求める物差しと、風合いや物語を尊ぶ物差しとでは、見えてくる価値はまったく異なります。価値は木材そのものに固定されているのではなく、それを見る人との関係のなかで生まれる。この捉え直しが、講演全体の出発点となりました。

続いて、木質材料の進化が「次元の広がり」として整理されました。柱や梁などの軸材(集成材やLVL)を一次元(1D)とすれば、合板やOSBなどの面材は二次元(2D)にあたります。さらに、板を繊維方向が直交するように貼り合わせた直交集成板(CLT)は、三次元(3D)の材料と位置づけられます。三次元の材料は、伸び縮みなどの性質が立体的に安定し、軸と面の機能を一体で備えるため、これまで木では難しかった中高層の建築にも用いることができます。実際に、国内外で木造のオフィスビルやマンションが建てられるようになり、「木の空間」は大きく広がってきました。こうした規格化と均質化は木材の普及を支えてきた一方で、一本ごとの個性は、しだいに背景へと退いてきました。

そして本講演の核心が、木材利用を「四次元(4D)」へと展開するという構想です。四次元とは、空間の価値に「時間」の価値を重ね合わせる発想を指します。木材には、年月を経て色や質感が深まる「熟成」、変化を活かし制御する工夫、修理してふたたび使う再利用、資源として循環させる再資源化といった、時間とともに価値を生む力が備わっています。たとえば、古い民家の梁が飴色に艶を増していくように、木は時間を味方につけられる素材です。空間だけでなく時間までも含めて木を捉え直すことは、ものづくりの仕組み、ひいては社会システムそのものの再設計へとつながっていきます。この力を活かすとき、木材利用は「形をつくる産業」から「時間と関係を育てる産業」へと姿を変えていきます。工業製品として均質さを求め、個性を削ぎ落としてきた木に、自然素材ならではの豊かさをどう取り戻すか。それが、これからの大きな問いであると語られました。

こうした構想を実践へと結ぶ枠組みとして、大学と企業が木質部品を試作・実装する「協働(Co-working)」、材料・建築・評価・国際連携が同じ未来像へ向かう「同期(Synchronization)」、その動きが地域や催しへと波及していく「共鳴(Resonance)」の三つが示されました。地域の木を暮らしのなかで活かそうとする秋田発の取組「あきたもくまる」も紹介されています。研究室の成果を社会の仕組みへと橋渡しする、実践的な道筋が具体的に語られました。結びに投げかけられた「木材を使うことは、森との関係を育てることにつながっているだろうか」という問いが、深く印象に残るご講演でした。

登壇資料、動画は近日中に公開させて頂きます。

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