調査研究
【インタビュー】秋田県立大学 足立幸司教授「木材利用を“社会システム”として再設計する ~DX・可視化、トレーサビリティ、木材×モビリティの視点から~」
秋田県立大学 木材高度加工研究所 足立幸司教授 講演後インタビュー
令和7年度森林・林業白書の公表に合わせて開催した本セミナーでは、秋田県立大学 木材高度加工研究所の足立幸司教授に「木材利用を”社会システム”として再設計する~DX・可視化、トレサービリティ、木材×モビリティの視点から~」をテーマにご講演いただきました。
講演内容をさらに深めるため、今後の展望についてお話をお伺いしました。
【当日配布資料及び動画】
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1.伝えたいメッセージと”社会への翻訳”

足立幸司教授
ー今回のセミナーでは156名(会場・オンライン)に向けてご講演いただきましたが、木材利用に関わる方へ特に伝えたいと思われたメッセージは何でしょう。また、講演でお話しされた「森の価値は森と社会をつなぐ翻訳の過程で生まれる」という”社会への翻訳”とは具体的にどのようなことでしょうか。
足立教授(以下 敬称略))木材利用を、単に木を材料として使う事ではなく、森と社会の新しい接点をつくる営みとしてとらえたいという事です。木の特別な価値を伝える一方で、木材加工と料理の共通性のように、木はだれもが関われる身近な素材でもあります。
森の価値を「木質化」のような業界の言葉だけでなく、製品やサービス、評価指標などでも社会が実感し、選び、行動できる形へ変換することが、これからの木材利用に重要だと思います。
森林には、木材生産だけでなく、環境、防災、健康、教育、文化など多様な機能があります。森に携わる「私」がそれを知っていても、「みんな」に説明しるだけでは、「私たち」の社会の選択や行動にはつながりません。
社会への翻訳とは、森林の機能を、企業、行政、生活者を含む「私たち」が勝ちとして実感し、判断し利用できる形へ変えることです。言葉による説明だけでなく、製品、空間、体験、サービス、評価指標などを通じて、「みんな」の目線から森の機能を社会の価値として具体化することだと考えています。

2.「時間と関係を育てる産業」という考え方
ー「木材は形をつくる材料から、時間と関係を育てる産業へ進化していく」というお話が印象的でした。この考えに至った背景や、研究・活動を通じて感じてこられた変化を教えて下さい。
足立)木材加工の研究者として、圧縮木材や曲げ木、三次元成型に代表される変形加工技術に長年携わり、軸材料~面材料~三次元材料という意識が生まれました。加えて、家具や工芸製品の開発を通じて、木材の「愛着」の言語化と向き合いや、作り手との関係性の育みと次の活動へのつながりを実感しました。以上のことから、木材利用がつくるのは形だけでなく、時間の中で変化する価値と、人や組織の間に残る関係だという想いが強くなりました。

3.自然素材としての価値評価
ーこれまでは木材は工業材料としての価値が重視されてきましたが、香りや触感、地域性、時間による変化など「自然素材としての価値」についてもお話しされました。今後、木材の価値評価はどのように変化していくとお考えですか。
足立)強度、品質、供給安定性といった工業材料としての価値は、今後も木材利用の基礎であり続けます。一方で、香りや触感、地域性、敬遠変化など、自然素材・4D材料としての価値も、より重視されるようになるでしょう。
大切なのは、すべての一つの物差しで評価するのではなく、用途や使い手、時間によって重視される価値が変わることを、川上から川下までが共有することです。それぞれの立場から木の多様な価値を見出し、森林や地域、社会へ公平に還元される仕組みに変えていく必要があると考えています。

4.3D・4D材料と”時間価値”
ー木材を「3D材料」、さらに時間軸を含めた「4D材料」として捉えるというお話がありました。これは木材利用の未来にどのような可能性を開くのでしょうか。また、この”時間価値”を企業や消費者にも分かりやすく伝えるとしたら、どのような価値だと説明されますか。
足立)木質材料は、軸材料(1D)、面材料(2D)として発展してきました。CLTは、軸材と面材の機能を一体化した3D材料として、都市木造など新しい空間を可能にしました。
その先の4Dとは、単に立体形状をつくるだけでなく、時間による変化まで設計対象にするという考え方です。
例えば、長期使用、修理・交換、減築や移築等の再配置、用途変更、再資源化まで組み込む視点は、木材を短期間で消費する材料ではなく、くらしや地域と長く関係を持ち、役割を変えながら使い続けられる材料として明確に意識するようになります。これは製品設計だけでなく、サービス、ビジネスモデル、地域文化の設計にもつながり、木材利用が社会インフラの一部を強く担う未来に向かっていくでしょう。
消費者にとっては、長く使うほど愛着が生まれ、暮らしになじんでいく価値です。企業にとっては、修理や再利用を通じて、製品と顧客との関係を育てる価値です。さらに地域にとっては、技術や記憶を文化として受け継ぐ価値であり、行政にとっては、それらが持続する制度や環境を整える価値だと考えています。

5.今後期待する異分野との共創
ー「森×モビリティ」「森×食」「森×工芸」など異分野との掛け合わせで木の可能性を広げる取り組みをご紹介いただきました。今後、特に可能性を感じている分野や、見てみたい社会実装はありますか。また、これまで木材業界と接点が少なかった分野(自動車、食品、観光、教育、福祉など)を踏むね、どのような業界との共創に期待されていますか。
足立)特に可能性を感じているのは、モビリティ、食、家具、教育、デジタルを個別に扱うのではなく、それらを森林情報や地域資源と結びつける取り組みです。木質部品や地域材を使うだけでなく、移動、働き方、健康、文化、地域産業まで含めて考えることで、製品が新しい関係を生む入り口になると思い、活動しています。
製品単体で終わるのではなく、修理や再利用、森林活動、地域との持続的な関りへつながる社会実装を見てみたいと思っています。
講演で触れた分野以外では、防災、獣害対策、子育て・教育を組み合わせた取り組みにも可能性を感じています。
森に親しむことは、自然を楽しむだけでなく、熊などの野生動物の生態や、森と集落の協会、災害リスク、地域資源の活用を学ぶことでもあります。
ダム流木や災害木を玩具、遊具、学習家具、仮設空間などへ活かし、平常時の遊びや学びを、防災や獣害対策にもつなげる社会実装を期待し、業界との関係を深めたいです。

6.関係性を広げる仕組みや場
ー「製品を作ったのではなく、動いたのは人・モノ・技術で、残ったのは関係だった」とお話しされました。この関係性をさらに広げるには、どのような仕組みや場が必要だとお考えですか。
足立)必要なのは、大きな新組織を作ることよりも、企業、大学、行政、地域の人が、試作品や森林情報、地域資源など愚弟的な対象を囲み、継続して対話できる場です。そこで生まれた使い手や地域の反応を、次の研究、製品開発、教育、事業化へ戻す仕組みも欠かせません。
単発の展示や会議で終わらず、出会いを次の実践へつなぐ伴走機能やブリッジ人材が重要だと考えています。
7.見てみたい未来、実現したい社会像
ー現在の研究・活動の中で、今後特に見てみたい未来、実現したい社会像があれば教えてください。
足立)森林資源の豊かさが、地域に暮らす人の実感としての豊かさにつながる社会を見てみたいと思っています。森林を基盤に、学びや仕事の選択肢が生まれ、すでにある道を選ぶだけでなく、自ら新しい仕事や活動を作ることもできる。その中で「自分で選んだ」「自分にもできる」「この地域でやっていける」と感じられる社会です。
地域の中で人、知識、技術、資源が循環しながら、地域外や海外にも開かれている社会を実現したいと考えています。

8. 5年後、10年後の「木を使うこと」の意味
ー5年後、10年後に「木を使うこと」の意味はどのように変わっていると想像されますか。
足立)現在は、木を使うことが、環境に良い、国産材を活用する、地域産業を支えるといった意味で語られています。5年後、10年後には、木製品を選ぶことが、その木が育った森や、つくった地域を応援することへ、より直接的につながっていると思います。
また、買って終わりではなく、手入れや修理をしながら長く使い、役割を終えた後も別の形で生かすことが当たり前になるでしょう。木を使うことは、単に材料を選ぶことから、森や地域とどのように付き合い、どのような暮らしを未来へ残すかを選ぶことへ変わっていくと期待しています。

9.JWDAへの期待
ー今回参加されたJWDA会員には、建築、住宅、メーカー、デザイン、教育など様々な分野の方がいます。木材利用の未来に向けて期待する行動や視点を教えて下さい。また日本ウッドデザイン協会のような、異なる分野をつなぐ場に対して期待される役割は何でしょうか。
足立)木材の未来は、正解を抜いてから始まるのではなく、まず形にして社会に出合わせるところから始まると思います。「あきたもくまる」も、車の木質化を超えて、想定していなかった対話や教育、森林情報との連携を展開しています。
製品の完成をゴールとせず、そこから人や技術が動き、関係や次の活動が生まれるところまでを、木材利用の成果として一緒に見ていければと思います。
木材利用に関する技術、デザイン、建築、製品を評価し、社会へ伝えてきた大きな蓄積を、今後は木材分野の外から持ち込まれる社会課題と木材側の技術や人を結びつける役割を期待しています。
異分野が出会うだけでなく、使い手の課題や需要が森や生産側へ戻るデマンドチェーンと、人や価値、次の活動がつながり続けるリレーションシップチェーンを育てる場になってほしいと思います。

10現在関心をもたれていること
ー最後に、木材・森林に関わることはもちろん、それ以外の分野でも構いません。現在特に関心を持たれていることや、今後挑戦してみたいテーマ、注目されていることがございましたら、ぜひお聞かせください。
足立)現在は「朽ちるということはどういうことは」に関心があります。木材は野外で使えば色や風合いが大きく変化しますが、必ずしも価値の低下ではなく、味わいや愛着にもなります。これらの変化をどのような尺度で測り、かちとして表現するかを考えてみたいと思っています。
さらに、腐朽による低分子化・ナノ化、やキノコ生産など、朽ちる過程そのものを次の利用へつなげることもできます。「朽ちる」を終わりとするのでなく、時間と循環を伴う価値変換のプロセスとして捉え直すことに興味があります。
森林資源の豊かさが、地域に暮らす人の実感としての豊かさにつながる社会を見てみたいと思っています。森林を基盤に、学び舎仕事の選択肢が生まれ、既にある道を選ぶだけでなく、自ら新しい仕事や活動をつくることもできる。
その中で、「自分で選んだ」「自分にもできる」「この地域でやっていける」と感じられる社会です。
地域の中で、人、知識、技術、資源が循環しながら、地域外や海外にも開かれている社会を実現したいと考えています。

11.木に関心を持った方々へ
ー今回のセミナーをきっかけに木に関心を持った方々へ向けて、メッセージをお願いします。
足立)木材利用の未来は、専門家だけが作るものではありません。一人ひとりが木や森とのかかわり方を一つ増やすことで、新しい利用や関係が生まれていきます。まずは身近な木製品の向こうにある森や地域に目を向け、森の面白さや木の奥深さを楽しんでいただけたら嬉しく思います。


