調査研究
【インタビュー】林野庁ご担当者に聞く『新たな「森林・林業基本計画」変更セミナー「百年つづく『森の国・木の街』」へ』
「百年つづく『森の国・木の街』」へー森林・林業基本計画の変更をどう捉えるか
ー林野庁の安田幸司氏に聞く、セミナー後インタビュー
2026年9月3日に開催した「新たな『森林・林業基本計画』変更セミナー」では、林野庁の安田幸司氏に、今回の計画変更のポイントについて解説いただきました。

セミナーでは、森林管理や再造林、森林認証、木質系新素材、木育、海外との比較など、多岐にわたる質問や意見が寄せられました。
今回は、セミナー終了後、参加者から寄せられた質問も踏まえ、これからの森林・林業・木材産業の方向性について、安田氏に改めてお話を伺いました。
Q1 「林業は成長産業なのか」という意見がありました。森林を守ることと、林業・木材産業を成長させることを、どのように捉えればよいでしょうか。
安田氏: 森林には、木材を生産し地域経済を支える産業としての側面がある一方、国土保全や水源涵養、生物多様性の保全など、国民生活を支える公益的な機能もあります。
森林の公益的機能を将来にわたって発揮していくためには、森林を適切に整備・管理していく担い手や財源が必要です。その基盤となるのが、木材の生産や利用を通じて森林資源を循環的に活用する林業・木材産業です。
二者択一ではなく、「森林を守るために林業があり、林業を持続させることで森林の機能も維持される」という関係として伝えていくことが重要だと思っています。
Q2 今回、森林区分が「育成単層林・育成複層林・天然生林」から「人工林・天然林」などへ整理されました。現場の森林管理には、どのような変化を期待されていますか。
安田氏: 従来の区分は、主に施業や管理の方法に着目したものでした。一方、今回の計画では、森林資源の循環利用を進める時代を迎えていることや、生物多様性への関心の高まりなどを踏まえ、森林の成り立ちに着目して、「人工林」と「天然林」、「利活用等により機能の維持増進を図る天然林」へと整理しました。
この見直しによって、直ちに現場の施業方法が大きく変わるわけではありません。引き続き、それぞれの森林の特性や立地条件、発揮すべき機能、地域の実情に応じた森林管理を進めていただくことを期待しています。
また、今後、森林資源の循環利用や多様で健全な森林づくりを進めるためには、林業適地のゾーニングも必要です。より分かりやすい区分に整理したところであり、ゾーニングが進んでいない地域では、その推進も期待しています。
Q3 再造林を持続可能なものにしていくため、特に現場で取り組むべきことは何でしょうか。また、今回設定されたKPIをどのように実効性のある取組につなげていくのでしょうか。
安田氏: 現場が置かれている状況はさまざまですので、一概にどれとは申し上げられません。
共通しているのは、再造林に伴う事業者や森林所有者の負担を軽減することです。労働負荷だけでなく、費用負担も含まれます。
あわせて、「どこを循環利用する森林とするか」「循環利用を持続できるか」を判断することも重要です。
さまざまな取組を紹介しましたが、地域の事情を踏まえて挑戦していただきたいと思います。
KPIについては、今後、林政審議会において達成状況を把握しながら、必要に応じて施策の見直しなども検討していくこととしています。

Q4 企業が木材を利用する際には、森林認証だけでなく、その木材がどのような森林から生まれ、どのような環境的・社会的価値をもたらしているのかを把握することも重要だと思います。今後、どのような仕組みが必要でしょうか。
安田氏: ご指摘のとおり、森林・木材が生み出す環境的・社会的価値を、より分かりやすく示していくことが重要になっています。
森林認証のみならず、森林経営計画や伐採届の適切な運用による合法性・持続性に関する情報の共有を進めていくこと、また、デジタル技術を活用して、木材の生産から流通、利用までの情報を追跡できるトレーサビリティとして林業DXを推進していく必要があると考えています。
こうした取組を進めるためには、関係者の相互理解や連携も重要です。クリーンウッド法の仕組みの活用や、地域の実情に応じた取組が進められることを期待しています。
Q5 木質系新素材の開発や実装について、今後どのような展開が期待されますか。
安田氏: 林業の収益性の向上に向けて、建築用材に利用できない木質資源を付加価値の高い用途に供給することへの関心が高まっています。
その新たな用途として木質系新素材を開発するとともに、安定的な木材需要を創出するため、持続的な素材産業として成り立たせることが重要です。
すでに社会実装が始まっている代表例として、セルロースナノファイバー(CNF)や改質リグニンがあります。
サプライチェーンの関係者の協力の下、各技術フェーズにおいて必要となる知識・ノウハウを持ち合わせたプレイヤーの育成や協働によって、社会実装を加速化させることが重要だと考えています。
なお、林野庁では2026年3月に「木質系新素材の社会実装ビジョン―森林発!次世代のバイオマス化学産業をつくろう―」を公表しています。
Q6 木粉などの再利用やサーキュラーエコノミーは、今回の基本計画ではどのように位置づけられていますか。
安田氏: 木質バイオマスの利用に位置づけています。
マテリアル利用では、CNFを含む多様な木質系新素材の開発や需要拡大を促進し、地域の木質資源について付加価値の高い利用へとつなげることとしています。
バイオマス利用では、カスケード利用や未利用材の活用を基本とし、熱利用や熱電併給について地域内での利用を推進するとともに、燃料材の安定・効率的な供給体制の構築を進めます。
さらに、早生樹の実証や、SAF等の活用に向けた検討も進めています。
Q7 木育について、「何をもって木育とするのか」「その効果をどのように評価するのか」という質問がありました。今後、共通する基準や評価手法を整備する可能性はありますか。
安田氏: 木育は、「木や森林とふれあい、木に学び、木と生きることを通じて、人と森との関わりを理解し、豊かな心を育む取組」とされています。
そのため、地域や主体、世代などによって、その取組方法や効果は多様(自由)になると考えます。
一方で、事例の横展開による取組の質の向上や、成果を適切に把握するための視点を整理することも重要だと考えています。
Q8 海外の先進事例や国際的な動向から、日本の森林・林業・木材産業が学ぶべきことは何でしょうか。また、日本から発信できる強みとは何でしょうか。
安田氏: 海外からは、デジタル技術の活用や、森林の環境価値を経済に取り込む仕組みを学ぶことができます。
一方、日本には、森林資源の循環利用、世界トップクラスの木材利用技術、そして里山に象徴される人と森林の共生があります。
今後は、海外の先進的な手法と日本固有の強みを融合させることで、持続可能な森林・林業・木材産業のモデルを世界に示していくことが重要です。
Q9 「森林・林業・木材産業の好循環」、いわゆる「正の連鎖」を実現するために、川上・川中・川下には、それぞれどのような役割が期待されますか。
安田氏: 「森林・林業・木材産業の好循環」は、特定の主体だけが努力して実現できるものではありません。川上・川中・川下のそれぞれが役割を果たしながら、相互に連携していくことが重要です。
川上には、伐採後の確実な再造林や適切な保育を通じた持続可能な森林経営。労働安全の確保やデジタル技術の活用にも取り組んでいただきたいと考えています。
川中には、国産材を安定的に加工・供給できる体制の強化に加え、新たな利用分野のニーズに応える製品開発や技術革新を期待しています。
川下には、国産材や木材製品を積極的に選択し、利用していただきたいです。木材利用は森林整備の促進、脱炭素社会の実現や地域経済の活性化にも貢献します。
そして、各主体がそれぞれ独立して行動するのではなく、需給情報、合法性、持続性、コストなどの情報を共有し、長期的な視点で連携することが重要です。

Q10 「百年つづく『森の国・木の街』」に向けて、百年後にも残したい日本の森林と木のある社会とは、どのような姿でしょうか。
安田氏: 日本の森林は、木材を生産する場であると同時に、国土を守り、水を育み、生物多様性を支え、地域の暮らしや文化を育んできました。
百年後にも残したいのは、こうした森林の価値がしっかり引き継がれ、森林が社会から必要とされ続ける姿です。
また、森林だけが残ればよいのではなく、そこに関わる人々や産業も持続していることが重要です。
森林を育てる人がいて、木材を加工する人がいて、木を使う人がいて、その営みが循環しながら地域を支える。そうした好循環が定着していることが、「百年つづく『森の国・木の街』」の姿ではないかと考えています。
森林は山村だけで守ることはできません。
都市部で木を使うこと、企業が森林や木材の価値を評価すること、消費者が木のある暮らしを選択することなど、一人ひとりの行動が森林の未来につながります。
Q11 今回、JWDAが森林・林業基本計画をテーマにセミナーを開催したことについて、どのような意義を感じられましたか。また、今後JWDAに期待する役割を教えてください。
安田氏: 森林・林業基本計画は、森林づくり、木材利用、地域活性化、温暖化防止、生物多様性など、幅広い分野に関係しています。
そのような中で、木材利用の最前線にいる企業や設計者、デザイナー、自治体、教育関係者など、多様な主体が参加するJWDAでこのテーマを取り上げ、新たな基本計画の考え方について多くの方に知っていただけたことは、非常に有意義な機会であったと感じています。
森林・林業基本計画にある「共栄」を実現するためには、川上・川中・川下の各関係者の理解と参画が不可欠です。
森林づくりや木材利用は、企業の経営や地域づくり、脱炭素、生物多様性、ウェルビーイングなど、多様な分野とつながっています。
川上・川中・川下、そしてその他の関係者が、それぞれに期待された役割、果たすべき役割を理解することが重要です。
JWDAには、「もっと、木と」を通じて「森の国・木の街」を実現するため、森林と都市、行政と民間、川上と川中と川下と消費者などを結ぶ役割を、今後も担っていただけることを期待しています。
インタビュー後記「もっと、木と」を、次の100年へ
安田氏へのインタビューを通して見えてきたのは、森林を「守る」ことと木を「使う」ことを別々に考えないという視点でした。
森を育て、木を使い、その価値を次の循環につなげる。川上から川下まで、それぞれの役割がつながってこそ、森林を守りながら木を使い続ける社会が成り立ちます。
「百年つづく『森の国・木の街』」とは、100年後も森があるというだけではなく、森と人、産業と暮らしがつながり続ける社会なのではないか。今回のインタビューから、そんな未来が見えてきました。

今回のセミナーにご参加いただいた皆さまには、改めて御礼申し上げます。皆さまから寄せられた質問や関心が、今回のインタビューを通じて、森林・林業と木のこれからを考える一つのきっかけとなりました。
有り難うございました。

